莫大な資金が眠ったままだ。だったら株主に還元すべきだ。こう考えた村上氏は二〇〇二年、五〇〇円の配当と上限五〇〇億円の自己株式取得を要求します。

　このニュースを知ったときの私の第一印象は、「なんと強欲な」でした。こんな手法があるのだと驚く一方で、いくら剰余資金が積み上がっているとはいえ、こんな巨額を株主に還元したら、東京スタイルの発展の可能性の芽を摘んでしまうのではないかと思ったのですね。

　しかし、改めて本書で村上氏の真意を読むと、最初の印象とは異なる村上氏の姿が見えてきました。株主を全く無視した当時の東京スタイルの“スタイル”には驚かされます。

　でも、東京スタイルは極端にしても、株主のことを考えない経営者は、当時は大勢いたことでしょう。村上ファンドの攻勢は、多くの経営者を震撼させたはずです。だからこそ、村上ファンドを悪者扱いする空気が蔓延したのでしょう。

　村上ファンドの存在を世間の多くの人が知ったのは、ニッポン放送の株の取得をめぐってです。

　有楽町の小さなラジオ局のニッポン放送が、巨大な存在感を持つフジテレビの親会社であるという不思議な構造になっていることを、このとき多くの人が知ったのです。