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あなた紀

あなた紀

文:最果 タヒ

文學界2月号

出典 : #文學界

「文學界 2月号」(文藝春秋 編)

 太陽の吐瀉物が頭に降りかかる屈辱は、知らない奴にはわからない、喜び、自信、期待が体の隅まで行き渡ったとき、俺は頭をまっすぐに地面へと叩きつけられたように思った、それは痛みもなく苦しくもなく、けれど人生そのものが、幸福という釘で固定されたような気がした。妻になったばかりの彼女はさっそく新居を探し始め、俺は宝くじが当たり、母親の病が治り、双子の弟の絵が売れた、俺はそのどれもが恐ろしかった、全て諦めていたことだ、俺はずっと貧しいし、母は病に苦しむし、弟はいつまでも報われない、全て諦めていたことだ、諦めていたことを今になって、罪深く感じなければならない。あの頃のままで良かったのにと、言いたくなる俺は地獄行きだ。こんなにも満ち足りた夜はないと思う、でも、俺を磔にした奴がいる、俺を釘で打ち付けたやつがいる。それを許さないというのは、そんなにおかしいことでしょうか?

 降り注いでくる幸運。俺は宝くじがあたった。降り注いでくる刃。降り注いでくる日光。俺は、札束をハルカスから撒きたくなっていた。

文學界 2月号

2020年2月号 / 1月7日発売
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