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直木三十五賞 候補作家インタビュー(3)呉勝浩 無差別射殺事件の真実とは──

『スワン』(呉勝浩 著/KADOKAWA)

『スワン』(呉勝浩 著/KADOKAWA)

「ちょうどこの作品を書く直前、映画『静かなる叫び』と『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の二本を観たんです。どちらの作品も取り返しのつかない大きな悲劇が起こり、後に残された人々が事件とどう向き合い続けていくかを描いたものでした。もともと僕自身、理不尽や悪意、あるいは暴力というものに登場人物たちが直面した時、どう抗っていけるのかということが作家として大きなテーマでしたが、フィクションだからこそ簡単に乗り越えさせてはいけない。これを大前提として悲劇を書くことが、『スワン』執筆の最初のモチベーションでした」

 二〇一五年、江戸川乱歩賞でのデビュー以来、次々に話題作を上梓してきた呉勝浩さんの最新作の舞台は、巨大ショッピングモール。買い物客らで賑わう休日の昼間、無差別射殺事件が起こり、犯人たちはその様子を自らストリーミング配信する。

「もともと事件以外のアイディアは何もないまま、まず関東の巨大ショッピングモールをいくつか取材に出かけました。編集担当には犯人が配信する動画と建物の防犯カメラの映像にちょっとした齟齬があって、そこから何かトリックが……なんて話していたんですけれど、実は嘘八百(笑)。ただ取材先の建物のそばにあった調節池を見て、小説の中のモールをスワンと名づけること、そこからの発想でオディール、オデットの広場があってもいいし、白鳥の首をイメージしたスカイラウンジを設定したら何かに使えるんじゃないか、主人公の女の子はバレエをやっていることにしようといった、イメージが広がりました」

 しかし、事件部分を書き終えた後、実際にニュージーランドで銃乱射事件が起こり、これにはたとえようのない恐ろしさも感じたという。

 物語は、主人公の女子高生・いずみに導かれて進んでいく。犯人と接触しながらも生き延び、あることが暴露されたことによって世間の非難にさらされていた彼女は、何を隠し、何を恐れているのか……。

「書いている途中で、いずみにはある企みがあって、さらに彼女は戦っているんだということに気がついて、一本の筋がはっきり見えました。過度な情報化社会の中で起こる残酷な出来事に対し、現実的には勝つことはできないし、長いものに巻かれた方が楽かもしれない。けれど主人公のいずみは、自分に負い目を抱え、モラルとせめぎあいながら、決して善き行動ではなかったとしても、世間と悲劇に抗い続けた。最終的に彼女が回答に辿り着くまでを書ききったと思っています」


ごかつひろ 一九八一年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。二〇一五年『道徳の時間』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。一八年『白い衝動』で大藪春彦賞。著書多数。


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