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直木三十五賞 候補作家インタビュー(1)小川哲 SF界の新鋭による多彩な短編集

『噓と正典』(小川哲 著/早川書房)

『噓と正典』(小川哲 著/早川書房)

 二〇一八年、『ゲームの王国』で日本SF大賞、山本周五郎賞のW受賞を果たし、SF界の新星として注目を浴びる小川哲さん。最新刊『嘘と正典』は、マジック、競馬、哲学、音楽、歴史など多様な題材を盛り込んだ短編集だ。

「アイデアを考えるとき、『まだ誰も見つけていないところにSFを見つけてやろう』という気持ちでいました。普段SFに馴染みのない人でも、とっかかりやすい小説になっていると思います」

 タイムマシンを使ったマジックを披露した後、姿を消したマジシャンの謎を追う「魔術師」、名馬・スペシャルウィークの血統を追ううちに、主人公が自身の人生との重なりを見つける「ひとすじの光」など、ミステリ要素も豊富に含まれた作品が並ぶ。どの短編も何度も読み返したくなる不思議な力を持っており、SFファンでなくとも楽しむことができる。

 全ての作品に共通したテーマは「時間」と「歴史」だ。「時の扉」にはそれが色濃く反映されている。特別な力によって過去を改変してきた、ある人物の人生が淡々と語られていくのだが、その正体が分かった時、読者は物語の巧妙な仕掛けに驚くことだろう。著者自身の「時間」に対する考え方も興味深い。

「“未来は変えられる”という言葉がありますが、これは矛盾した言葉だと思います。まだ存在していないものは変えることができないからです。一方、過去はどうでしょうか。僕が大学院に進学する頃、周囲の友人は就活の真っ最中でした。彼らは就活の過程で、自分のこれまでの人生を都合の良いように再定義、もしくは捏造しているように僕には感じられました。例えば、ゴーゴーバーに行くためにタイに旅行していたのに、いつの間にか“世界の見聞を広めるため”“ボランティアのため”になっていたりして(笑)。変えられるのは“未来”ではなく“過去”だと考えるようになりました」

 表題作「嘘と正典」は斬新な設定で描かれた歴史改変SF。「マルクスとエンゲルスが出会わなければ共産主義は生まれなかったのではないか」という仮説をもとに、CIA工作員が共産主義消滅のために奔走する。

「書き終えてみて、SFと歴史小説は似ていると確信しました。今ここではないところを舞台にし、ある問いに対する根源的な答えに近づいていくという点においては、同じだと思うのです。違いがあるとしたら、過去の資料を調べて舞台を作るのか、未来を想像して作るのかということだけだと思います。今後はジャンル問わず色々と挑戦していきたいです」


おがわさとし 一九八六年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。二〇一五年『ユートロニカのこちら側』でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。


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