インタビューほか

<西條奈加インタビュー>江戸の夫婦の「離縁事情」に迫る!

「オール讀物」編集部

江戸も現代も、妻の悩みは変わらない――

<西條奈加インタビュー>江戸の夫婦の「離縁事情」に迫る!

江戸の離縁の背後にも、浮気や嫁姑問題が

『わかれ縁』(西條 奈加)

「ある文献資料を読んでいたら、江戸の離縁のことについて詳しく書かれていて、興味を持ったことが執筆のきっかけでした。基本的には離縁のための三行半は男性側からしか書けないわけですが、ひとつひとつ見てみると結構、自由度は高いんです。よく退職届けに『一身上の都合で』という文句を使いますが、それと同じで書面の文章はあくまで建前。女性にばかり不利なわけではないし、易々と持参金が嫁ぎ先のものになってしまうわけでもない。法律上は財産分与もきちんと保証されています」

 しかし、法のもとで権利は認められていたとしても、現実はそうは動かない。本書の主人公・絵乃は浮気と借金を繰り返す夫の富次郎に愛想を尽かしながら離縁に踏み切れず、帰ることのできる実家もない。その苦境に手を差し伸べてくれたのが、公事宿「狸穴屋」だった。

「民事の揉めごとを奉行所に訴え出た時、その煩雑な手続きを代行するのが公事宿です。すぐにはお裁きが出ないことも多く、町奉行所の近い場所に訴人が長逗留する必要があることから生まれた仕組みですが、公事宿を名乗れるのは幕府が認めた株を持つ宿だけでした」

 狸穴屋という宿名は、狸を「り」、穴を「円」と読ませれば、「りえん」になる。さまざまな種類の訴訟がある中でも、いわば離婚訴訟のエキスパートとして知られる公事宿で、女主人は離婚歴が七度という強者の桐である。

「あえて〈女将〉という設定にしたのは、江戸でも現代でも女性は絶対に職業を手につけている方がいいと、私自身が思っているからですね。たとえ離婚したくても、特に子供がいる場合、働いてなければ経済的に難しいでしょう。両親がいれば後押しもしてくれるかもしれませんが、絵乃は両親もいないわけで一人ではどうしようもない。離縁にかかる費用を稼ぐためにも狸穴屋で働くことになり、ほかの夫婦の離縁と関わることで、彼女の道を探していけたらと考えました」

 夫婦が離縁を考える事情は、ある時は金銭感覚(「二三四の諍い」)、ある時は嫁姑問題(「双方離縁」)などそれぞれ違う。「必ずしもお金や価値観ばかりの問題ではなく、情が絡むから揉めるんです」と西條さんは言う。

「私はどうしようもない男に尽くし続ける、女性の気持ちがまったく分からないので(笑)、最後の絵乃の決断は、かなり驚くような思い切ったものかもしれません。けれど、狸穴屋の人々とその周囲の物語をまたいつか書いてみたいですね」


オール讀物3・4月合併号より


さいじょうなか 北海道生まれ。二〇〇五年『金春屋ゴメス』で日本ファンタジーノベル大賞受賞。一二年『涅槃の雪』で中山義秀文学賞。一五年『まるまるの毬』で吉川英治文学新人賞。

わかれ縁西條奈加

定価:本体1,500円+税発売日:2020年02月21日


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