
最後のページを読み終えて、深く息をつく。手にここちよい重さを感じながら本を閉じた。
読む前よりも読み終えたあとのほうが、なぜか重く感じる本がまれにある。本書で私はそういう経験をした。おそらくそれは、一冊の中に流れている時間の厚みのためだろう。
一組の男女が出会い、夫婦となってともに暮らし、死別するまでの歳月が、夫から妻への手紙を軸に回想される。夫は吉村昭、妻は津村節子。書かれた時代が下るにつれて、文学仲間から恋人へ、そして夫婦へと二人の関係は移っていくが、吉村氏はどの時期の手紙でも、実に率直な言葉で愛情を綴っている。
生涯というものをお前は考えたことがあるか? 愛する女を妻としている男の幸福を考えたことがあるか? それは生命に代えてもよいような幸せなのだ。(一二二ページ)
貴女は人間的に素晴しい。女としても、僕には分に過ぎたひとです。
貴女と共に過すことができたことは、僕の最大の幸福です。生きてきた甲斐があった、生れてきた甲斐があったと思います。(一九五ページ)
吉村文学はいくつかのジャンルに分けられるが、ノンフィクションを仕事とする私がいまも繰り返し読んでいるのは、記録文学と呼ばれる作品群である。それまで見過ごされたり、誤って伝えられたりしてきた事実が、いくつも吉村作品によって掘り起こされてきた。
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