本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
<対談>森見登美彦×深緑野分「空想対談 虚空に城をなす」

<対談>森見登美彦×深緑野分「空想対談 虚空に城をなす」

別冊文藝春秋

電子版31号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

――『熱帯』は、前半は読むことをめぐる話で、後半は、謎の本の中味が出てきて、書くことをめぐる話になっていきますね。

森見 「後半は訳がわかんない」と言う方もいて(笑)。中断していた時期には小説の書き方が分からなくなっていたんですが、その時に悩んでいたことを全部入れたから、ああいう不思議な小説になっちゃったんです。

深緑 私は後半が大好きです。前半ももちろん大好きですけれど。話がずれるかもしれないですけど、私は子どもの頃ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』がすごく好きでしたが、主人公のバスチアンが「幼ごころの君」に名前を与えた瞬間、がっかりしたんです。『熱帯』もそういう、名前を与える本かと思ったら……、すみません、例えの意味がよく分からないですよね(笑)。

 作家には、何かを言葉にして表す、いってみれば知らないものに名前をつけるという作業が結構あります。でも、どうしても名前がつけられなくて、名前をつける直前で終わる、みたいなものが私は好きで、『熱帯』はそういう本だったんです。正体が明かされて大団円で終わっていたら「は?」となっていたかもしれないけれど、永遠に終わらない千夜一夜物語になっていて、でもちゃんと終わらせてくれて、入口と出口では違う自分になっていると感じさせてくれて。すごいなと思いました。

森見 ありがとうございます。小説家が小説とはなんぞや、というのをテーマにしてお話を書くのは、血で血を洗うような、変なことじゃないですか。でもやってみたくなるんですよね。非常に危険なことなのに。

深緑 危険ですね。でも危険なものを書けるのは、小説家の憧れですよ。

森見 僕はもうやるつもりないですけど(笑)。

深緑 私は“物語の力”みたいな言い方は好きじゃないんですけれど、本を読みたい、読み終わりたいんだけれどずっと読んでいたい、みたいな願望って小説家が書く動機の中にもある。森見さんの『熱帯』はその完成形だと思うので、自分もできたらやってみたいというか。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日

単行本
熱帯
森見登美彦

定価:1,870円(税込)発売日:2018年11月16日

プレゼント
  • 『赤毛のアン論』松本侑子・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/11/20~2024/11/28
    賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る