インタビューほか

<対談>森見登美彦×深緑野分「空想対談 虚空に城をなす」

別冊文藝春秋

電子版31号

――“物語の力”みたいな言い方が好きじゃないのはどうしてですか。

深緑 物語って、すごく力があると思うんですよ、いい意味でも悪い意味でも。だから過信しすぎるのが怖いというか。「物語の力」というと前向きにとらえられることが多いけれど、私はそれをわりと後ろ向きにとらえていて、怖いものと感じています。

森見 まさに『熱帯』ってそういう話なんです。自分は『熱帯』の作中作を、心惹かれるけれども、怖いものだな、と思って書いていました。自分の妄想で作った世界に読者を無理やり引っ張り込むわけで、それがいいものか悪いものかもわからない。そりゃあ僕が作ったものだから、悪いものだとは思いたくないけれど、怪しいというか、変なものを作っているとは感じています。

夢のなかでも探し続けた

――この人の妄想や想像力が面白かった、という作品はありますか。

森見 想像力にはいろんなタイプがあるから難しいですね。僕が『ペンギン・ハイウェイ』を書いた時に元にしたのはスタニスワフ・レムの『ソラリス』というSF小説ですけれど、想像力の強さというか、大きさを感じた小説でした。人間が理解できない相手とコンタクトをとる話、つまり、想像できないものを想像しようとしている小説です。しかも想像もできない宇宙の果ての星の上で起こっていることを、くっきりと想像させるんです。

深緑 私は改めて、自分にとって想像力って何だろうと考えてみたんです。もしかしたら『指輪物語』を書いたトールキンの想像力に近いかもしれない。トールキンはホビットやエルフとかいろんな種族について文化とか言語まで作ってしまう。私はデビュー作の短篇集で架空の国の話(『オーブランの少女』所収、「氷の皇国」)を書いていますが、その時に人が生活するには水が必要だから川がある、その川は何本あるか、川べりで暮らしている人と山で暮らしている人たちの仲はどうか、というふうに想像を重ねていきました。要は、論理的思考で想像力を補強するというか。それがトールキンの想像力に近いものなのかなと思います。小さい頃好きだったロアルド・ダールとか、エドワード・ケアリーの想像力も好きなんですけれど。

――最後に、お互いに訊いてみたいことはありますか。

森見 『ベルリンは晴れているか』についてぜひお聞きしたいことが。あの作品、現在進行形の部分は主人公の女の子の一人称で書かれて、幕間の部分は三人称ですよね。なぜこういう書き方になったのでしょうか。

深緑 幕間と区別をつける意図もあったんですけれど、ミステリー的に、現在パートを三人称で書くと、主人公のアウグステの動きが若干怪しくなるんですよね(笑)。それと、(アウグステのこれまでが描かれる)幕間よりも、現在進行形の話のほうに感情移入して読んでほしいというのもありました。

 確かに、一人称で書くか三人称で書くか、結構悩んだんです。最初は三人称で書きはじめたんですけれど、ミステリーのルールからすると、三人称ではごまかせない部分が出てきてしまって。アウグステの一人称であれば、彼女が知っていることしか書かなくていいので、それでいこうと思いました。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日

熱帯森見登美彦

定価:本体1,700円+税発売日:2018年11月16日