- 2020.05.27
- インタビュー・対談
<誉田哲也インタビュー>デビュー作『妖の華』に始まるシリーズが再始動!
「オール讀物」編集部
『妖の掟』(誉田 哲也)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
時代を見つめる「不老不死」の存在
デビュー作『妖の華』から、なんと十七年の時を経て、シリーズ二作目となる『妖の掟』が刊行された。
情報屋の辰巳圭一は、盗聴器を回収しているのが見つかってヤクザに袋叩きにされているところを不思議な男女に助けられる。欣治(きんじ)と紅鈴(べにすず)と名乗るこの二人は、情報屋の仕事を手伝う代わりに圭一の部屋に住まわせてほしいと言い出し、奇妙な共同生活が始まった。食事をする様子もなく、日光を避けて暮らす二人を不審に思う圭一。実は二人は、不老不死の体を持ち、人間の生き血を吸って生きる「闇神(やがみ)」だった。
「もともと石川英輔さんの『大江戸神仙伝』が好きで、時代ものにも興味があったんです。これは現代人が江戸にタイムスリップする話ですが、じゃあ、不老不死の存在が時代の移り変わりを目撃し続けるものを書いたら面白いのではないかと考えたわけです」
『妖の掟』は、『妖の華』の三年前が舞台。圭一は、「藤田一家」の総長である藤田弘義から“組長三人殺し”を命じられる。無茶な仕事を引き受けてしまった圭一のため、紅鈴と欣治は殺しを実行し、警察は、その不可解な殺人現場に頭を抱えるが――。つまり、『妖の華』で紅鈴が語っていた“組長三人殺し”事件の詳細や彼女の過去が、本作でやっと詳らかになるのだ。
「“組長三人殺し”という事件があったことは『妖の華』にも書きましたし、その内容も、物語内の史実として僕の中には既にあったんです。ただ、他のシリーズもあり、なかなか二作目を書くタイミングが巡ってこなかった。やっと、この“妖”もシリーズものだと胸を張って言えるようになりました」
ヤクザの抗争に巻き込まれ、警察も動きを見せる中、さらには紅鈴と欣治の正体を知る何者かが動き出す。紅鈴は、そして欣治はどうして闇神になったのか。本作では、闇神という存在の謎についても徐々に明らかになっていく。姉弟のようであり、恋人のようであり、それ以上の関係である紅鈴と欣治。一緒に暮らすうちに二人を慕うようになる圭一。三人を待ち受ける運命とは――。
「実は、『妖の華』を書くより前に、江戸時代を舞台に、紅鈴と欣治の日常を短篇で書いていたんです。正体を隠しながら生きてきた二人にとって、互いはどんな存在なのか。この十七年間、二人のことはずっと頭の片隅に置いていましたし、彼らが過ごしてきた長い時間には僕も思いを馳せてきました。なので、彼らの気持ちは、もう確信的にわかっているんです」
満を持してのシリーズ再始動。紅鈴の物語は、まだまだ続きそうだ。
ほんだてつや 一九六九年東京都生まれ。二〇〇二年『妖の華』でムー伝奇ノベル大賞優秀賞、〇三年『アクセス』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。『背中の蜘蛛』等著書多数。