日本の首相の不誠実に抗して
キューバ革命の立役者であるチェ・ゲバラとフィデル・カストロを描いた「ポーラースター」シリーズの最新刊が誕生した。今作の主人公は、キューバの指導者フィデル・カストロ。当時のキューバを支配していたのは、若きJ・F・ケネディらが活躍する大国アメリカの傀儡政権だった。腐敗が横行したバチスタ政権に立ち向かったフィデルの最初の戦いが描かれている。
「当初は、チェ・ゲバラを通してキューバ革命を描こうと考えていたんです。ところが、この革命とは何だったのか、ということをじっくり考えた時に、ゲバラはアルゼンチン人であり、この革命にとっては、ある種のお客さんとも言える。だとすれば、やはりフィデル・カストロを書く必要があると感じたのです」
フィデル・カストロが大衆を惹きつけたのは、演説の際の「言葉の力」だとされている。バチスタ政権に対するクーデターに失敗し、投獄されたフィデルは、法廷で四時間にわたる演説をぶち上げる。後に、「歴史は私に無罪を宣告するだろう」と呼ばれる名演説の場面は圧巻だ。フィデルは臨時法廷から、国民にこう語りかける。
――祖国が踏みにじられているのを見過ごす人間は誠実ではありません。人民から自由を奪う者、人間から誠実さを奪う者に対し立ち上がる人間こそ至誠の者なのです――。
「日本の首相が、国民に対して不誠実な対応を続けるという状況のなかで、『フィデル出陣』が刊行されたことにも因縁を感じます。フィデル・カストロという政治家は、いろいろと欠点もありましたが、『国民を幸せにしたい』という信念に関しては、誠実であったからです」
トランプ大統領は、フィデル・カストロの訃報に際し、「独裁者が死んだ」との声明を発表した。アメリカと同盟関係にある日本では、キューバは、独裁政権に支配された暗黒の国家だというイメージで語られることもあった。キューバの指導者となったフィデル・カストロに、多くの権限が集中していたのは事実だ。
都合六度もキューバに長期滞在し、いろんな縁に導かれ、関係者との交流を深めた著者が描く、キューバという国、フィデル・カストロの人物像は、私たちの想像を超えて、魅力的なものだった。
「今の日本は、新自由主義経済によるダメージを被った当時の中南米と重なって見えます。至近距離で、米国と対峙したキューバの歴史と、フィデル・カストロの生き方に学ぶべき点は、多いのではないかと思っています」
かいどうたける 一九六一年、千葉県生まれ。二〇〇六年、『チーム・バチスタの栄光』で作家デビュー。他著にポーラースターシリーズ『ゲバラ覚醒』や『コロナ黙示録』など。