インタビューほか

年の差恋愛で見えた切実な想い――『私は女になりたい』(窪 美澄)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

年の差恋愛で見えた切実な想い――『私は女になりたい』(窪 美澄)

十四歳年下の男との恋のゆくえ

『私は女になりたい』(窪 美澄)

 恋愛小説の名手として知られる窪美澄さんが最新刊で描くのは、“アラフィフ女性の恋”、四十七歳の女性と三十三歳の男性の恋模様だ。

「私は今五十四歳ですが、女性にとって五十歳前後というのは、肉体的にも精神的にも大きく変化する時期です。人生の節目、二回目の思春期と言ってもいいかもしれません。そんな女性が、心惹かれる人に出会ったとき、二十代や三十代の頃と同じようにはいかないけれど、どんなふうに恋愛をするのかを書いてみたいと思いました」

 美容皮膚科クリニックの院長として働く主人公・奈美は、カメラマンの夫と別れ、女手一つでひとり息子を育ててきた。老いた母の面倒も見ながら、必死に生きてきた奈美のもとに、患者として現れたのが、十四歳年下の公平。彼はあることをきっかけに通院しなくなるのだが、医師と患者という関係でなくなった二人は、急速に距離を縮め、惹かれ合っていく。

『私は女になりたい』

 胸を掴まれるストレートなタイトルには、主人公の、そして窪さん自身の切実な思いが込められている。

「歳を重ねてきて、美しさへの渇望感が若い頃よりも激しくなっている気がするんです。最近は“ありのままを肯定しよう”という、年齢や美醜にこだわらない風潮がありますよね。否定はしませんが、個人的にはまだ美しさにこだわっていたい、女でいたい、という思いがあります。生殖能力がなくなっていくなか、最後に恋愛でドカンと花火を打ち上げたいみたいな(笑)」

 妻として、母として、娘として、様々な役割を背負ってきた奈美。そんな彼女がただ“女として”いられるのが、公平との恋だった。だが、彼の存在に救われながらも、次第にその若さに気後れし、恋心との狭間で葛藤する。

「年上の女性が年下の男性と恋愛すると、年上や同世代と恋愛するよりも、女性側の老いが目立つと思うんです。四十七歳の奈美が恋愛によって受ける傷が、公平の持つ“若さ”によって浮き上がってきて生々しく描けました」

 奈美は院長という立場だが、雇われの身で、背後には常にオーナーの年配男性の存在がつきまとう。女性が経済的に自立して生きていくことの困難さも、この物語には描かれている。奈美がどのように自分の力で人生を切り開いていくのかも、読みどころだ。

「日本では未だに女性が自由に生きていくことが難しいですが、自分の人生に責任をとれるのならば、何をしても良い。もし今生きづらさを感じている方がいたら、奈美のように一歩踏み出す勇気を持ってほしいと思います」


撮影/富永智子


(「オール讀物」11月号より)


くぼみすみ 一九六五年、東京都生まれ。二〇一一年『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞、一二年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞、一九年『トリニティ』で織田作之助賞受賞。


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