- 2020.12.21
- インタビュー・対談
遅れていたはずの国が、一気に先進国を跳び越える。これが「リープフロッグ(蛙跳び)」だ!
野口 悠紀雄
『リープフロッグ』(野口 悠紀雄)
出典 : #文春新書
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
第2章では、もう一つの顕著なリープフロッグの例として、アイルランドを見ます。この国は、イギリスの支配下にあって工業化を実現することができず、ヨーロッパで最も貧しい農業国でした。ところが新しい情報技術に対応することによって目覚ましい経済発展を実現しました。現在では一人当たりGDPや労働生産性において、世界のトップにあります。日本の2倍ぐらいの水準です。かつての支配国イギリスをも抜いています。工業社会を経験しなかったために、美しい自然や街並みが昔のまま残されています。
第3章では、中国の歴史を見ます。人類の歴史の多くの時代において、中国が最先端国でした。紙や火薬などさまざまな技術は中国で発明されたものです。しかし、明朝時代に鎖国主義に陥った中国は、停滞し、ヨーロッパ諸国によってリープフロッグされました。そして、産業革命に対応できなかったことによって、中国の遅れは決定的になりました。
第4章のテーマは、ヨーロッパの大航海です。遅れていたヨーロッパは、大航海によって新しいフロンティアを開き、やがて中国を追い抜くことになりました。ヨーロッパの中でもさまざまな国の間で次々にリープフロッグが起き、覇権国は、ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリスと交代しました。
第5章で見るように、リープフロッグ現象は、19世紀後半から20世紀初頭にかけての第2次産業革命においても見られました。第1次産業革命を実現したイギリスが、ドイツやアメリカに追い抜かれたのです。これは、イギリスの社会構造が、ガスや蒸気機関などの古い技術に適合したものに固定され、電気という新しい技術に対応できなかったためです。
第6章では、ビジネスモデルについて論じます。新しい技術さえあれば必ずリープフロッグができるかというと、そうではありません。新しい技術を収益化するビジネスモデルが必要です。このことは、とくにインターネットのような情報関連の技術について顕著です。適切なビジネスモデルを確立した企業や人々が、あるいは、新しいビジネスモデルを確立した技術体系が、それを確立できなかった企業や人や技術を「飛び越える」という事態が頻発するようになったのです。そのもっとも顕著な例が、Googleと阿里巴巴です。
第7章では、日本がリープフロッグできるための条件を検討します。技術とビジネスモデル、そして人材、とくにリーダーと専門家が必要です。これらの条件を満たすのは、決して容易なことではありません。
個人や企業についても、「リープフロッグ=逆転勝ち」がありえます。個人や企業が逆転勝ちできるような社会でなければ、国全体が他の国をリープフロッグすることはできません。逆転勝ちが可能な社会構造を維持すること、そして、一人一人が逆転勝ちの可能性を信じて、政府の指導や補助金に頼ろうとせずに努力を続けることが必要です。それができれば、日本はリープフロッグし、再び世界の注目を集める国になるでしょう。
2020年10月
野口悠紀雄
(「はじめに」より)