その執筆活動の集大成といえる最新刊『風神の手』
――最後に最新刊の『風神の手』についてお伺いします。この作品は、エピローグを含め全四章からなる長篇ですが、最初は第二章の「口笛鳥」を朝日新聞の夕刊に中篇として連載するというかたちで執筆されたんでしたね。
道尾 中篇を書くときも短篇を書くときも、大前提として、ひとつの作品として完璧なものをまず目指します。のちのち連作や長篇の一篇に使おうなんて思いながら書くと、質が下がっちゃうので。だからいつも、ひとつの完成品として中篇や短篇を書いたあとで、それをどうやって本にするかを考えます。『風神の手』の場合はひとつの町を舞台に、長い時間をかけていろんな物語が絡み合って、でも元を辿ればほんの小さな出来事が原因だった――という仕掛けにしようと思いました。そこで他の三章を書いて、この形に仕上げたんです。
――この作品の根幹を成す「風が吹けば桶屋が儲かる」的な発想というのは、道尾さんの小説にしばしば出てきますね。
道尾 かつてコナン・ドイルが「ジョン・ハックスフォードの告白」で書いたように、ほんの小さなことが大きなことの原因になる、その現象自体に強い興味があるんです。現実世界でも、何かの元を辿ればまた元があって、一番最初にあるのはものすごく些細な出来事だった、というケースがほとんどだと思うんです。その現象を、ひとつの町の中で起きた30年の物語として書きました。
――『風神の手』は、道尾さんの小説の集大成的な作品ではないかと私は思っているのですが、道尾さんご自身はどのように思われているのでしょうか。
道尾 主人公の性別や年齢が変わりつつ、長い時間が流れていくというこの作品は、やりたいことが全部できたという手ごたえがありました。長篇を書いているときなどは、どうしてもその作品には混ぜ込めない、水と油のようなアイデアも出てきます。でもこの作品は、性別も年齢も違う主人公たちだったので、思いついたアイデアをすべて詰め込むことができたんです。
――ここまで10作品を振り返ってきたのですが、ご自身の作品の自分らしいところはどこだと思いますか。
道尾 僕はただ好きなものを自給自足的に、本屋さんに売っていないから自分で書いているというような気持ちなんです。作家生活10周年記念の『透明カメレオン』は初めて読者のために書いた小説でしたが、それ以外はただ自分が好きなことを好きなように書いてきたので、これだけ読者がついてくれたのは奇跡ですよね。でも、そのスタイルが自分らしさかなと思うんです。これからも自分好みの小説を書くことで、読者の皆様に恩返しができればと思っています。
※2020年12月8日収録
聞き手=千街晶之(ミステリ評論家)
撮影=掛祥葉子(朝日新聞出版写真部)
文庫を刊行している版元10社(朝日新聞出版、KADOKAWA、幻冬舎、講談社、光文社、集英社、新潮社、中央公論新社、東京創元社、文藝春秋)が共同して書店フェアを開催しています。
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