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直木賞候補作家インタビュー「鮮やかな感性で紡がれる青春小説」――加藤シゲアキ

直木賞候補作家インタビュー「鮮やかな感性で紡がれる青春小説」――加藤シゲアキ

インタビュー・構成:「オール讀物」編集部

第164回直木賞候補作『オルタネート』

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

『オルタネート』(加藤 シゲアキ/新潮社)

 本書の重要な核となる「オルタネート」とは、利用条件が高校の入学式から卒業式までと定められた、高校生限定のSNSアプリ。ユーザー同士の直接のやり取りのほか、指定条件で相性のいい人間をレコメンドするマッチング機能、ブログを投稿できる機能などを持ち合わせ、現代の高校生にとって必須の人気アプリとなっているという設定だ。

「普段から小説になるような物語の種をつい探してしまうのですが、テレビ番組の企画で、マッチングアプリについて議論した時に、賛否両論がはっきりと分かれたんです。その瞬間に『これは書けるのでは!』と思いました。しかもこうしたアプリへの是非は、年齢が若ければ若いほど極端に意見が違ってくるので、高校生という設定にすればより面白い作品になる。自分が三十代になったからこそ、当時の感覚を冷静に見つめなおすことができるだろうとも考えました」

 このアイディアから東京にある私立円明学園高校を舞台とし、調理部部長で品行方正な新見蓉(にいみいるる)、オルタネートの絶対信奉者である伴凪津(ばんなづ)、さらに高校を中退後にバンド仲間を求めて大阪から単身上京した楤丘尚志(たらおかなおし)の三人の主要人物が立ち上がった。三人の恋、友情、家族、そして人と〈繋がる〉こととは――それぞれが悩み、葛藤しながらも前へ進んでいく。

「彼女、彼らが何を大事にして、何を嫌うのか、それはなぜなのかという過程を重視して、あらかじめ人物像は作り込みました。特に人間性がもっとも顕著に現れるのが、オルタネートに対する姿勢なので、各キャラクターの芯としてそこは意識したところです。あとは高校生活が生き生きとしたものになるよう自由に動かしつつ、終盤のうねりは複数の視点を組み合わせ、群像劇の熱狂を高めていきました」

 十代後半の青春が躍動するシーンの中には、「正直なところ書いていて照れ臭い」ところもあったが、小説誌連載中から反響が大きく、書き上げた現在では、すべてのキャラクターに愛おしさを感じるという。

「文学賞のノミネート自体が初めてなので、直木賞候補と聞いて本当に驚きました。新人賞を経由せず、小説界に飛び込んだ自分が、これまで書き続けてこられたのは、関係者や編集、書店員やファンの方々のおかげです。まずは心より感謝を皆さんにお伝えしたいですね。直木賞の選評はこれまでも読んできたので、選考委員の方々の厳しさは十分に承知しています。今は煮るなり焼くなり好きにしてください、といった覚悟でいます(笑)」
 

©新潮社

加藤シゲアキ(かとう・しげあき)

一九八七年大阪府出身。NEWSのメンバーとして芸能活動をしながら、二〇一二年『ピンクとグレー』でデビュー。『傘をもたない蟻たちは』ほか著書多数。


直木賞選考会は2021年1月20日に行われ、当日発表されます

(オール讀物1月号より)

オール讀物2021年1月号

 

文藝春秋

2020年12月22日 発売

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