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直木賞候補作家インタビュー「元農水官僚が挑む死と裏切りのゲーム」――長浦 京

直木賞候補作家インタビュー「元農水官僚が挑む死と裏切りのゲーム」――長浦 京

インタビュー・構成:「オール讀物」編集部

第164回直木賞候補作『アンダードッグス』

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

『アンダードッグス』(長浦 京/KADOKAWA)

 舞台は一九九七年の香港。中国への返還を目前に控え、ある“国家機密”がひそかに香港の銀行から運びだされるらしい――。本書は、この“機密”を収めたフロッピーと書類の強奪を依頼された元農水官僚・古葉の死闘を描く、超ド迫力の冒険&ミステリーだ。

「編集者と話して『最近コンゲームの味わいがある暴力小説がないよね』と盛りあがり、ジェフリー・アーチャーの『百万ドルを取り返せ!』をもう少しハードにしたような冒険ものを書いてみようと思いついたんです。

 ただ、現代を舞台にコンゲームを書くと、コンピューターやインターネット技術を駆使した機械的な話になりがちです。もうちょっとアナログな雰囲気がほしい。人や物がゴチャゴチャと行き交い、衝突しあっている時期や場所はどこだろうと考えるうち、九七年の香港が頭に浮かびました。実は返還前の香港を二度、訪れたことがあり、強烈な印象が残っていたのです」

 主人公の古葉は「国益に適う正しき行為」と信じて関わった農水省関連団体の裏金作りが発覚、退職を余儀なくされていた。さらに裏金作りをマスコミにリークした犯人に仕立てあげられ、田舎の家族の生活まで人質にとられ、危険な香港での仕事を受けざるを得ない状況へと追い詰められていく。

「一番それっぽくない人を活躍させるのが面白いと思って、農水官僚を主人公にしました。ドメスティックに日本の農業問題を考えていて、国際的な謀略になんて絶対かかわりたくないと思ってる人が、むりやり海外に連れて行かれる展開が楽しいかなと(笑)」

 香港で古葉を待つ任務達成のための“チーム”は、元銀行員の英国人、IT技術者のフィンランド人等、国籍もキャリアも様々な怪しい面々ばかり。共通するのはみな本国にいられず、事情を抱えて集まってきた“負け犬”ということ。最後の最後まで、誰が味方で誰が敵か判然とせず、裏切りの連続、死の連続、一ページ先さえ予測不可能な急展開が四百ページにわたって続く。果たして“任務”の行方は?

「僕が返還前に訪れた香港には本当にいろんな国の人間がいて、ヨーロッパにいられなくなり流れてきた人とか、純粋にお金を稼ぎにきた人とか、生きるため、香港にお金が落ちてるから来た――という匂いをぷんぷん放つ連中ばかりでした。この小説ではそうした匂いをストレートに描いた方がいいと思ったし、それが香港という街の説得力だろうと思ったんです。

 僕の小説の主人公って、個人じゃなくて街なんです。香港の匂いや雰囲気を一本の柱として描いたつもりです」

長浦 京(ながうら・きょう)

一九六七年生まれ。二〇一一年『赤刃』で小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。一七年『リボルバー・リリー』で大藪春彦賞、一九年『マーダーズ』で細谷賞。


直木賞選考会は2021年1月20日に行われ、当日発表されます

(オール讀物1月号より)

オール讀物2021年1月号

 

文藝春秋

2020年12月22日 発売

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