- 2021.01.15
- インタビュー・対談
ホラーより怖いミステリ!? 第164回直木賞候補の話題作。 ――芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』インタビュー
聞き手:Voicy 文藝春秋channel
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
研ぎ澄まされたミステリ5編からなる芦沢央さんの短編集『汚れた手をそこで拭かない』。
怖すぎる!と書店員さんの間でも大いに話題となった本作、刊行直後のインタビューをお届けします!
インタビュー音声はコチラ→https://voicy.jp/channel/1101/99355
――ついに『汚れた手をそこで拭かない』が刊行になりました! お疲れ様でした。
どうもありがとうございます!
一時は本が出せないかと思いましたよ、正直(笑)。実は最初は別の作品を収録する予定だったのですが、執筆中にどうしてもこれを書きたいというアイデアが浮かんだので、「忘却」を書き下ろしたんです。なのでとにかく時間がなくて……。ギリギリ間に合うかどうかというところだったんですけど、「書くぞ!」となったら物語が最後まで全部見えていて。
――そこからは早かったですよね。
そうですね。一気に書けました。元々、『汚れた手をそこで拭かない』は、お金を裏テーマにしようと思っていました。お金に振り回される人、金銭哲学が人生哲学に結びついてる人、お金の価値が反転する話など。そこにもうひとつ、「お金がもったいない」という感覚の話を入れたいと思って生まれたのが、「忘却」です。ざっくり最初のところだけ言っちゃうと、アパート暮らしの老人が熱中症で亡くなるのですが、その原因がどうもエアコンを付け損ねていたらしいと。電気代を滞納してたみたいだよ、という話を聞いて、隣人である主人公の男性がビクリとする。そういえば、以前、間違えて配達されてきた隣の家の電気代の督促状を、認知症の妻が隣人に返し忘れていたと。督促状が行かなかったせいで電気が止まって亡くなったんだとしたら、自分たちのせいなんじゃないか。そういう始まりですね。
――まさかの結末でしたね。
そうですね(笑)。こんなところに転がっていくとは……という。
――これは全編通してなのですが、妙にリアルなんですよね。お金の話と言っても、例えば大金持ちが出てくるとかでもなくて。
本当にどこにでもいる人々の、普通の感情の変化を積み重ねた先に、こんなに怖いことになるなんて……という感じですよね。
――怖いといえば、書店員さんからもすでに大変反響をいただいていて。皆さん怖い! って。
こんなに怖いと言われると思っていなくて……。ハラハラする話としては書いたつもりなんです。以前に「ガッツリ怖い話を書くぞ!」と思って執筆した『火のないところに煙は』というホラーがあるのですが、あの作品より怖いと言う人がすごく多くて、結構驚きましたね。
――身近な人間が一番怖いのかということを改めて思いました。怖がらせようとしてるわけじゃないからこそ怖いというか。
登場人物たちが、特殊な行動をとってるわけではないんですよね。ただ、色々な歯車がイヤなタイミングでずれたことによって、こんなことになっていく……という。でも悪いことをしたから悪いことが起こるわけでもない。その理不尽だったり不条理だったりすることが滲むように書きたいなと思いました。
――ものすごい悪党みたいな人も出てこないじゃないですか。
そうですね。学校のプールの水を間違えて流しちゃった先生の話だとか、元カレが来て食事に行こうかと誘われて、自分が成功したところを見せて見返してやりたいっていう気持ちになった料理研究家が、とんでもないことに巻き込まれていくみたいな話だとか。映画監督でようやく映画を撮り終えるという時になって、主演俳優の薬物使用疑惑が出たりとか。そういう色々な展開があります。
バラバラなお話なんですけど、先に読んでくれた書店員さんたちは、それぞれに一番好きっていう作品が違ったりして、すごく嬉しいです。
――芦沢さんはどの作品が一番手ごたえがあったんですか。
1話目、2話目の「ただ、運が悪かっただけ」と「埋め合わせ」がもともと日本推理作家協会賞の短編部門にノミネートされた作品だったので、クオリティ的にこの2作に引っ張ってもらう短編集になるのかなって思っていました。ですが、全編書き上げてみたら、むしろそれ以降に書いたもののほうがどんどん良くなっているんじゃないかと思っていて。書いた順番としては、「ただ、運が悪かっただけ」、「埋め合わせ」、「お蔵入り」、「ミモザ」、最後に「忘却」の順番なのですけれど、やっぱり後半の3編がいいのが書けたんじゃないのかな、と手応えがあって。実際の反響もこの3編が大きいんです。最初にこの短編集を作る時に目標としてたところは越えられたかなと思っています。
――短編は、まさに芦沢さんの得意分野ですよね。
独立短編集ってなかなか今、書かせてもらう機会が少なくて。どうしても長編や連作短編を編集さんは依頼されることが多いと思うんです。ただ私は、原稿用紙数十枚の話の中にギューッと世界観が詰まって、必要なものが過不足なくあって、パシーンっと伏線が決まるような短編の世界が大好きで。読むのも書くのもとにかく好きなので、ずっと独立短編を書きたいと思っています。
前に『許されようとは思いません』という独立短編集をたくさんの方に応援して頂いて、そのおかげで今回の作品が書けたと思うんです。まだまだ独立短編集を書き続けたいので、『汚れた手をそこで拭かない』も広く届いたらいいなと思っています(笑)。
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