- 2021.02.23
- インタビュー・対談
大分県を舞台にした日本警察史上最大の作戦――『観月 KANGETSU』(麻生 幾)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
日本警察史上最大の作戦が白日の下に
『外事警察』などで知られる麻生幾さんの新作は、“日本警察史上最大の作戦”に取材して社会の「光と闇」をあぶり出す、王道の警察小説だ。
舞台は大分県杵築(きつき)市。今も江戸時代の城下町の面影を色濃く残している。この街で毎年行われる「観月祭」の一週間前、地元の名産品七島藺(しちとうい)の工芸士である七海が突如襲われる。その翌日には、七海が幼いころからお世話になっているパン屋の妻が死体で発見され、長閑な地方都市はにわかに不穏な空気に包まれる。
「これまではハードな小説を多く書いてきて、一貫して『光と闇』のテーマを追いかけてきました。私が描く『闇』は政治の汚職や権力闘争のようなものではなく、もっと根が深い。今回は昔からずっと心の底にあった“絵画的”な小説にしたいと思いました。そんなことを考えていた一昨年の晩秋、杵築市を訪れる機会に恵まれました。観月祭の行灯のろうそくを見るうちに、私のテーマを深く掘り下げる舞台はこの街をおいてほかにない、と思うようになりました」
しかし折からのコロナ禍で取材は困難を極めた。そのときに強力なサポートをしてくれたのが、地元杵築市の方々だった。
「再度杵築市にお邪魔したかったのですが、コロナウイルスの蔓延で断念せざるを得ませんでした。しかしながら、観光協会の方が街並みや方言を含めて熱心に協力してくださって。杵築の方のご支援なくしてこの小説は完成しませんでした」
この美しい城下町にどんな闇がひそんでいるのか。その陰影が読みどころの一つだが、根底にあるテーマの確かさがあるからこそ、物語は大きなうねりを生み出す。
「私は常に『闇』の中にいる人々に心を寄せて小説を書いています。例えば、明るい世界(公の世界)に身を晒すことを忌避するある特殊部隊員にインタビューした時の話ですが、毎日死ぬ思いで訓練をして、死と隣り合わせの現場にも行く、そこで愚痴も不満もあるだろうけど家族にも恋人にも任務について話すことはできない。そんな生活でどうやって自分を支えているんですか、と聞いてみたんです。そしたら『誰にも知られないことが最高の快楽だ』という答えが返ってきました。痺れましたね。闇の中で生きる人の矜持に感動してしまった。そうやって生き方に凄まじさを感じると、その人のことをもっと知りたくなる。ラストシーンで明らかとなってゆく、その感動と興奮を、小説を通じて読者に届けることができていれば嬉しいですね」
あそういく 大阪府生まれ。ノンフィクション『情報、官邸に達せず』で作家デビュー。小説では『外事警察』『宣戦布告』などが映像化され反響を呼んだ。その他の小説に『トツ!』など。
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