「文藝春秋digital」で連載され大きな反響を呼んだ麻生幾さんの小説『観月』は、大分県で行われる「観月祭」を題材にした警察小説。
前回のインタビューに続き、今回は小説のテーマについてコメントを頂きました。
麻生幾さんコメント
――麻生さんの小説は、普段の生活で目を向けることの少ない人々に光を当てる、闇の中で奮闘している人々に光を当てる作品が多いと思います。これはずっと麻生さんのテーマであり、『観月』では、色濃く出たのではないでしょうか。
そうですね。『観月』に出てくる男たちのように、いわゆる秘密の仕事をする人は、やっぱり闇に生きてるんですよね。例えばスパイたちは、夜の闇に紛れて、汚い街を走り回って、任務を遂行しています。一方で、それは最終的に国家を揺るがすような活躍に繋がるかもしれない、闇で生きているけれど、光に辿り着く可能性もあります。しかし、光というのは儚いものなんですね。その儚さを、観月祭の行灯のろうそくの光に投影した部分がありました。観月祭の行灯は、動画で見て頂ければ分かると思うのですが、白い紙に巻かれた行灯があって、その中にろうそくが立てられています。それがまばゆい光を放つんですけど、風が吹くたびに、かなり揺らぐんです。その揺らぎが白い紙に影として表れる。その光景を見ていると、この世のものではないという儚さというんですか、そこに生きたものがいないんじゃないかという風な錯覚に陥ったんです。
特別な仕事をしている人たちというのは、闇の中のろうそくのように儚いんですよね。ゆらゆらと揺れてはっきりした姿かたちは、容易には捉えられない。
ろうそくの光の儚さに対比されるのが、月という強い光なんです。この光を強調したくてタイトルを『観月』としました。月の光というのは、いわば表の世界で生きている人間です。いつでも見ることができるし、人々の生活を照らしている。
そのため、この小説の中では「八日夜月」とか「十三夜月」とか事件の進展に合わせて、どんな風に月が見えるかも描いています。月の光が強いほどに闇も濃くなるので、日の当たらない仕事をしている人の儚さをより読者に伝えられるのではないか、そんな思いで書き上げました。
担当編集者より
舞台となるのは、大分県の杵築市という城下町の名残をとどめている街。映画のロケでも使われるような本当にきれいな所なのですが、毎年仲秋の名月にあわせて観月祭という祭りが開催されます。『観月』ではその祭りの1週間前に、とある事件が起こるところから物語が始まり、次々に事件が起こっていきます。それらは一見関係ないように見えますが、紐解いていくと、やがて日本警察史上最大の作戦といわれる公安が絡んだ作戦に行きつく。最終的に国家を巻き込んだ巨大な闇が白日の下にさらされることになり……という壮大な警察小説になっています。
ダイナミックなストーリーはもちろんですが、もうひとつ楽しんでいただきたいのが、街の描写です。杵築市の観光協会の方が全面的に協力して下さって、麻生さんが何十回もメールや電話でやり取りをされていました。そのため、リアリティが抜群で、読んでいると実際に街歩きをしているような旅気分が味わえると思います。コロナ禍で外に出られないご時世なので、地方の城下町を歩くような気分を活字で楽しんで頂けると思います。
麻生さんは『外事警察』などの小説のほか、ジャーナリストとしてノンフィクションも色々とお書きになっています。かつては週刊文春の記者もやられていました。非常にジャーナリスティックな面をお持ちの方なんですけども、実は若い頃、画家を目指されていたそうなんです。そんな麻生さんだからこそ、『観月』は「絵画的」といえるような、頭のなかに色彩が鮮やかに浮かんでくる小説になっています。麻生さんのジャーナリストとは別の面も、ぜひお楽しみください!
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