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北海道のキャバレーで働く人々の悲喜を描く――『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(桜木紫乃)

北海道のキャバレーで働く人々の悲喜を描く――『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(桜木紫乃)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

人生の哀歓を円熟のユーモアで描く
『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(桜木 紫乃)

 変わったタイトルは、大竹まことさんが口にしたフレーズだという。

「ラジオ番組に呼んでもらった時、十九歳の頃の大竹さんが、私の出身地である釧路のキャバレーへ営業に行った昔話をしてくれたんです。『その時のメンバーが “俺と師匠とブルーボーイとストリッパー”だったんだよ』って聞いた瞬間、生放送中にもかかわらず『その話、私に書かせてください!』とお願いしました(笑)」

 主人公は、北海道のキャバレー「パラダイス」で下働きをしている二十歳の章介。ひょんなことから章介は、年末年始のショーのために来道した出演者三人とキャバレーの寮で同居生活を送ることに。三人の演者とは「世界的有名マジシャン」チャーリー片西、「シャンソン界の大御所」ソコ・シャネル、「今世紀最大級の踊り子」フラワーひとみ。しかし、その華麗な触れ込みとは裏腹に、彼らのステージはハプニングの連続だった。

 たとえば、チャーリー片西こと“師匠”は、颯爽と登場したとたん上着の裾からドサっと何かを落とす。それはマジックで使うはずの白い鳩だった。結局“師匠”はすべてのマジックを失敗してステージを降りるが、一転、マイクを握ると「歌は世に連れ世は歌に連れ、流れ流れるこの世には浮世と名付けた川がある……」と、見事な歌紹介を披露したりもする。

 ドタバタ加減が絶妙で、笑えるシーンが続くので、桜木さんは、さぞ周到にネタを練った上で執筆したのだろう――と思いきや、「毎回まったくのノープラン。締切がくるたび何もない状態から書き始めていた」という。

「連載をスタートする時のメモを見ても、『師匠=マジック失敗』『シャネル=女装』『フラワー=年齢不詳』くらいしか書いてない(笑)。作者がことさら意図しなくても、彼らが勝手に動いてくれるのが一番だろうと思って。二十年近く書いてきて、そういうチャレンジをする度胸はつきました。

 連載中の私は、章介たち四人が入り乱れて戦うプロレスのリングを客席から眺めているような心持ちでした。いつ誰が飛び出してどんな技を繰り出すか、作者の私にもわからないんです」

 ひと月足らずの共同生活を通して、しだいに打ち解け、家族のような不思議な関係を築いていく四人。ユーモアや哀歓とともに若き章介の変化と成長が描かれていくところも味わい深い。

「貧乏とか苦労は、深刻に描こうと思えばいくらでも深刻にできるけど、今回あえて深刻にしない筆の進め方がよいかなと。書いている間の私の楽しさが、みなさんに伝わるといいですね」


さくらぎしの 一九六五年北海道生まれ。二〇〇七年『氷平線』でデビュー。『ラブレス』で島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で直木賞、『家族じまい』で中央公論文芸賞。


(「オール讀物」5月号より)

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