――お三輪ちゃんで書けると思ったのはどうしてですか?
大島 自分がどうしてこんなにお三輪ちゃんに惹かれるのか、それを知りたいと思いました。私の場合、小説を書く動機の一つに、ただ調べているだけではわからないけれど、書くことによって知ることができるというのがあって、お三輪ちゃんの何がこんなに私の心を引っ張っていくのかというところを知りたいがゆえに『渦』を書いたとも言えます。
それからは資料を集めたり、専門家の方のレクチャーを受けに行ったりしました。文楽は人形遣い、三味線、義太夫がいるのですが、人形遣いの吉田勘彌さん、義太夫の豊竹呂太夫師匠のところへ、執筆と同時進行でお話を聞いていきました。浄瑠璃についてはもっと知りたくなって、呂太夫師匠に素人弟子入りもしましたね。
――ラストやテーマを決めて書きはじめますか?
大島 何も決めずに書きはじめますし、テーマは書き終わってからもわからないことがあります。私の小説全般がそうなのですが、あるとき急に書き出しの1行目がわかるんです。1行目が書けると、次の文章が見えるので、それに忠実に従っていけば小説が書けます。『渦』の場合は、資料を読んだり取材をしたり、自分の中に入れて入れてインプットしているうちに、書けるという瞬間が見えてきました。だから1行目は本当に大事で、絶対に疎かにはできません。
ただ気負ってしまうと書けなくなってしまうので、軽い気持ちで正しい1行を書くんです。小説は長くなっていくので、どういう風にこの物語世界が閉まるのかというのを楽しみにしながら書いていきます。自分の中でもこんな感じの小説だからこんなふうに終わっていくのかなと予想はしますが、割と予想は裏切られることも多いですね。
作家によって物語の作りかたは全く違っていて、ある意味、小説家としてやっていくために自分なりの作り方を探しているような気がします。