第8回高校生直木賞の選考会に先立ち、前回の受賞者である大島真寿美さんへ、全国の高校生から受賞作の『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』について、また小説を書くことについての様々な質問が寄せられました。
――『渦』執筆のきっかけについて教えてください。
大島 小説家になりたい女の子がある作家のところに住み込む『あなたの本当の人生は』という作品を書いた後、次に「文藝春秋で書けるのは10年後くらいかな」と編集者に言ったところ、私が歌舞伎が好きなことを知っていて、好きなものならもっと早く書けるのではないか、歌舞伎の小説を書いてくださいと言われたんです。
歌舞伎は好きだけれど、好きであることと書くことは別なのでそれは無理だと答えていたんですが、あまりにも言われ続けるので、「妹背山婦女庭訓なら書けるかも」と言ったところ、それでいきましょう、と(笑)。それがきっかけですね。元々「妹背山婦女庭訓」は変な演目だなと気になっていたんです。
――「妹背山婦女庭訓」が変というのはどういうことですか?
大島 前半は王朝物(歴史物)、蘇我入鹿の陰謀が背景になっているんですが、後半は町娘の色恋が出てくる世話物。一見、全然繋がらない話をダイナミック、かつ大胆なより合わせがなされているんです。ファンタジーでもあるし、王朝ものでもあるし、世話物でもあるといういろんな要素がギュッと入っているスケールの大きい演目。最初は中村七之助さんの歌舞伎の「妹背山婦女庭訓」を見たときにこれなら書けるかもと閃いたんですね。
それで「妹背山婦女庭訓」について調べ始めたところ、歌舞伎ではなく文楽(人形浄瑠璃)で始まったのがわかりました。ちょうど東京の国立劇場で文楽の妹背山がかかっていて見にいったんです。文楽を見たのはそれが初めてで、そのお三輪ちゃんを見た時に、これは書けると確信しました。