- 2021.07.22
- 特集
「小説家としての見事なテクニックを感じる」羽田圭介の新たなる代表作『Phantom』は現代人の葛藤を炙り出す
羽田圭介さんメッセージと書店員さんの声をご紹介
ジャンル :
#小説
外資系食料品メーカーの事務職として働く、元地下アイドルの華美は、将来のために生活を切り詰めて株に投資をしている。一方、恋人の直幸は「使わないお金は死んでいる」とそんな彼女を笑い、オンラインコミュニティの活動にのめりこんでいく――。
お金に翻弄される現代人の葛藤を描く、羽田圭介さんの新刊小説『Phantom』が7月14日に発売となりました。本作に寄せた羽田さんからのメッセージと、書店員さんからのコメントをご紹介します。
羽田圭介さんメッセージ
書店員さんの声
7月28日 大塚真祐子さん(三省堂書店・成城店)からのコメントを追加しました!
大塚真祐子さん(三省堂書店・成城店)
誰の生き方にも共感できないのに、読み終えてみると、華美や直幸や末たちの言葉が、自分のなかに種子のように小さな影を落として、根をはろうとしているのがわかる。
「肉体」という単語が物語の後半に出てきたとき、この物語の核があぶり出されたと感じた。
消費しようと貯蓄しようと、没頭しようと狂信しようと、だれの肉体もひとしく老いてやがて朽ちる。
朽ちていく肉体のあがくさまを、とりどりに見せつけられているのだ、と気づいた。
経済や社会の既存のシステムに信頼をおくこともできず、かといって目新しい思想や画期的なストラクチャーに、自分を投げ込むようなしたたかさも持てないとすれば、そこに残るのは空っぽの肉体だ。
何もない、ということを認めたとき、感じるのは恐怖か諦念か、あるいは突き抜けた快楽か。
過去でも未来でもなく、かぎりなく現代で現在の物語。
感染症の何度目かの拡大と、オリンピックの狂騒に溺れそうになりながら、自分が本当に見たいものは、感じたいものは、信じたいものは何なのかを、この作品を読んでからずっと考えている。
伊野尾宏之さん(伊野尾書店・店長)
現代的な錬金術を揶揄しながら、決して短絡的な結論を出してないのがいいと思いました。
ムラを作る側も、投資する人間も、愚かな大衆も、明確に勝者/敗者にしていない。「Phantom=幻」というタイトルがよく効いていると思いました。
お金も、生き方も、幻のようなものを「大衆」である我々はずっと追いかけながら生きていくのでしょうね……。
「昔あったことを知らない人たちが、それを新しいものと思い込んでいる」は真理だなと思います。
伊野尾さんのさらに熱い『Phantom』評はこちらから!
伊野尾書店WEBかわら版(http://inoo.cocolog-nifty.com/news/2021/07/post-fd5a35.html)
山本亮さん(大盛堂書店)
羽田さんらしいシニカルさが、良い意味で露悪的に出てしまいかねないテーマでありながら、巧くそれを抑制していて、テーマが浮き彫りにされていますね。感情と経済力を等置させいたずらに二律背反にせず、冷静に描写して人間の生きる上の互いの信頼と自身の心の充足に対して、小説家として切り込んでいくテクニックが見事だと思いました。情景描写も良かったです。特にサーフィンに行くシーン、思いもかけない死の穴へ陥りそうなことによって、華美の少し刹那的な感じと反して生きるという意思が出てきて、後半の展開に微かに被っているようで印象的でした。
羽田さんらしい遊びがありながらも緊密な文章の中に、色々押し引きがある物語でとても読み応えがありました。
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