ベストセラー作家・柚月裕子が、初めて挑んだ医療小説『ミカエルの鼓動』が10月7日に刊行されます。
雄大な自然が広がる北海道を舞台に、難病の少年の治療方針をめぐって、二人の心臓外科医がぶつかりながら、「命の意味」を問う感動巨編。その魅力の一部に触れていただくべく、詳細なあらすじと、登場人物紹介を公開。担当編集者が執筆の舞台裏を語ります。週刊文春連載時に描かれた日置由美子さんの挿絵とともに、物語の世界をお楽しみください。
【あらすじ】
この者は、神か、悪魔か――。気鋭の著者が、医療の在り方、命の意味を問う傑作長編。
大学病院で、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医・西條泰己。
病院長の曾我部一夫や、元コンサルで、経営部門のトップに引き抜かれた雨宮香澄らの支持を得て、西條は、「ミカエル」による手術を全国に広げていこうとしていた。
そこへ、ドイツ帰りの天才医師・真木一義が現れ、西條の目の前で「ミカエル」を用いない手術を、とてつもない速さで完遂する。真木を招へいしたのは、病院長の曽我部だった。
「ミカエル」という切り札がありながら何故だ、と西條は自問自答する。
あるとき、難病の少年・白石航くんの治療方針をめぐって、二人は対立。
「ミカエル」を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。
そんな中、西條を慕っていた若手医師が、自らの命を絶った。
大学病院の闇を暴こうとする記者・黒沢巧も西條に迫る。
「ミカエル」をめぐり、何かが起きている。そのとき、西條は――。
【主な登場人物紹介】
【『ミカエルの鼓動』担当編集者が執筆の舞台裏を語る。】
(A・単行本担当〈先輩〉/B・文庫担当〈後輩〉)
医療小説に挑戦する覚悟。
A 柚月さんから「次作は心臓外科医を主人公にします」と聞かされたとき、「これは絶対に読みたい!」と思いつつ、「手術シーンの描写などを含めて、医学的専門知識が問われる、大変な道を選ぶのだ」とその覚悟に、身が引き締まりました。
B 柚月さんの中では、大自然の中で、「命とは何か」を問いかける物語が書きたい、というのがまずあって、その物語にふさわしいのが、心臓外科医だ、という決断でしたね。
A そのうえで、多くの医師に会って、医師とはいかなる存在か、という哲学的な問いをぶつけてらっしゃいました。病に倒れ、すがるような思いで、医師のもとを訪れる患者さんがいて、「絶対にこの人を助ける」という医師の思いがあっても、助けられない命がある。医療の現場には、重い現実があります。
B 執筆スタートの前に、医学専門書を抱えた柚月さんと、ドイツ取材にご一緒したことも懐かしく思い出します。日本人の心臓外科医の取材でしたが、私はミュンヘンの街を堪能しました(笑)。
A コロナ禍の前で、ギリギリのタイミングだったよね。ドイツでは、実際に手術の現場を見て、どうでした?
B 生後七か月の赤ちゃんの手術に立ち会いました。開胸されたときに見えた心臓は、白い色をしていて。その神々しい光景が、印象的なシーンとして描かれています。
A 執筆の後半で、大阪警察病院の副院長にお会いしたときも、医師の赤裸々な本音を聞いて、「命を預かる重さを感じた」とおっしゃっていて、そこから柚月さんのギアが上がった気がします。医師が抱える葛藤、大学病院の闇など、読みどころも満載です。
柚月裕子・昭和三部作、完結編として。
B ところで、今作の医師たちも、柚月さんの小説らしい「昭和のテイスト」を感じませんか?
A 小説の医学的な設定は、すこし先の未来ですが、登場人物たちが放つ香りはまさに、昭和。私とB君の間では、『孤狼の血』『盤上の向日葵』に続く、【柚月裕子、昭和三部作・完結編】と呼んでたよね。
B 現時点での代表作ですね。医療小説という意味でも、日本初の心臓移植手術を描いた渡辺淳一さんの『白い宴』、山崎豊子さんの『白い巨塔』に連なる作品になると自信をもって送り出せます。
【プロフィール】
柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)
1968年、岩手県生まれ。2008年デビュー。16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞を受賞。18年『盤上の向日葵』で〈2018年本屋大賞〉2位となる。他の作品に『あしたの君へ』『検事の信義』『暴虎の牙』『月下のサクラ』など。
装画、イラスト・日置由美子
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