大人になった剣士たちが挑む大事件
あさのあつこさんの最新刊『舞風(まいかぜ)のごとく』は、江戸を遠く離れた小舞(おまい)藩を舞台にした時代小説。少年剣士たちの成長を描いた『火群(ほむら)のごとく』『飛雲(ひうん)のごとく』に続き、シリーズ開始から約十年を経て、ついに完結を迎えた。
「彼らの青春時代については、前の二作で書ききることができました。今回は、若さを失った彼らが大人としてどのように生きていくのか、自分の人生や世の中と向き合っていくのか、私自身も知りたくなったんです」
大規模な政争を経て、落ち着きを取り戻したかのように見えた小舞藩。しかし、ある日の夜、藩を揺るがす大火が発生する。筆頭家老の息子で、執政会議に参加する身となった樫井透馬(かしいとうま)は、元服後、名を林弥(りんや)から正近(まさちか)に改めた側近の新里(にいざと)、山坂半四郎(やまさかはんしろう)とともに、藩の復興に奔走する。日に日に犠牲者が増えていく一方、執政たちの行動は鈍く、三人は苛立ちを募らせていく。
「連載の途中でコロナ禍に見舞われたので、大火の対応に遅れる小舞藩の様子と、今の日本の姿が重なる部分がありました。小説は読者の方に楽しんでいただくことが一番大切だと考えているので、“政治はこうあるべきだ”といった直接的な表現はしていませんが、私が日常生活のなかで感じていた怒りや苛立ちが、小説のなかにも自然に反映されたように思います」
本作で重要な役割を果たすのが、尼寺の清照寺で罹災者の手助けをする少女・千代(ちよ)と、彼女の叔母・恵心(けいしん)尼だ。恵心尼は、かつての名を七緒(ななお)と言い、正近の兄嫁にあたるが、政争で夫と実兄を亡くし、出家の身となった。正近は少年時代、七緒に特別な思いを抱いていたものの、お互いに歳を重ね、その関係性にも変化が見られる。
「人と人との関係性は固定されたものではなく、流動的だと思うんです。七緒は、正近の成長に大きな影響を与えた女性ですが、その役目はもう終わったのではないかと思います」
果たして大火は、単なる事故だったのか。執政たちの対応に違和感を持つ透馬たちは、真相究明に動き始める。さらに、千代は罹災者から大火の原因に繋がる重要な手がかりを得て……。
「頭のなかで悶々とするしかなかった若い頃と違い、透馬、正近、半四郎は行動を起こし、世の中を変えていくことができる立場にいます。人々に希望を与えられるような存在になってほしいと願いながら書きました」
小舞藩の未来を背負う男たちが辿り着いた衝撃の真実とは? 三人の雄姿を見届けてほしい。
あさのあつこ 一九五四年岡山県生まれ。『バッテリー』で野間児童文芸賞、『たまゆら』で島清恋愛文学賞を受賞。『NO.6』『The MANZAI』『ガールズ・ブルー』『燦』ほか著書多数。
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