- 2022.03.03
- インタビュー・対談
警察庁特別チームvs.国際テロリスト集団。日本人ランナーを守れ!――『アキレウスの背中』(長浦京)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
公営ギャンブル対象のマラソンを巡る戦い跌
『アンダードッグス』が直木賞候補にもなった長浦京さんの最新作は、公営ギャンブルの対象となったマラソンレースをめぐるノンストップ・サスペンスだ。2023年、東京都心部で行われることになった東京ワールド・チャンピオンズ・クラシック・レース(東京WCCR)は、日本政府公認の公営ギャンブル対象のマラソンレース第一号という設定だ。その出場選手で有力な優勝候補の嶺川蒼(みねかわあおい)へ脅迫状が届く。
「20年程前に東京マラソンのコース近くに住んでいて、警備の予行を見て興味を持ったのが構想のきっかけです。今のスポーツは資金を集めるのに、公営かつギャンブル的要素がないと難しい。ギャンブルというとイメージが悪いですが、スポーツへの投資や応援と考えたらハードルは下がりますよね」
主人公の女性刑事・下水流悠宇(おりづるゆう)に課せられたのは、脅迫の犯人の特定と逮捕であった。悠宇は、新手の犯罪に対応するために警察庁が考え出した新たな捜査手法であるミッション・インテグレイテッド・チーム(MIT)に召集され、年の近いメンバーを集めたなかで班長を命じられる。だが、事件の全体像を知らされず懐疑的な気持ちを抱えたまま、嶺川選手に会いにいくと、直後、今回の脅迫の真の狙いが上層部から知らされる。
「悠宇は、最初はもっとドライな人物の設定でした。これまでの警察小説が書いてきた組織内の対立や世代間の乖離ではなく、現場の人々が今の犯罪についていくためにもっとクレバーでクールに働く姿を描きたかったんです」
ところが、連載中に不思議なことが長浦さんの身に起きたという。
「登場人物をイメージ通りに動かしてきたこれまでとは違って、彼らが、僕のイメージを超えていったんです。悠宇が、当初とは違って、温かみのある人間に変わっていくのが不思議だし面白かった。彼女は、日常の中で誰しもが抱える小さな傷や不満、逆に背中を押してくれるモチベーションを持った普通の人の象徴になりました。成長するキャラの背中を追うように書きましたね。今まで自分の書きたいように書いてきましたが、今作は、人に読んでもらうために、どうしたら伝わるのかを考えて書いたという意味で、本当のデビュー作と言えます」
捜査で嶺川の人柄に触れるうち、悠宇に、恋愛や憧れとは違う、心底、嶺川を守りたいという気持ちがわく。嶺川が追う「アキレウスの背中」とは。
「スポーツに限らず、何かを追求していくときにはロマンが必要です。誰しもが感じる夢や目標に対してのロマンがこの言葉に集約されました」
ながうらきょう 1967「年埼玉県生まれ。2011年『赤刃』で小説現代長編新人賞、17年『リボルバー・リリー』で大藪春彦賞、19年『マーダーズ』で細谷正充賞受賞。