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20分考えて手が止まったら即上司に報告……圧倒的な“速さ”を生むコンサルタントの仕事術とは?

20分考えて手が止まったら即上司に報告……圧倒的な“速さ”を生むコンサルタントの仕事術とは?

メン獄

『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』より #2


ジャンル : #政治・経済・ビジネス

 2020年代、“大コンサル時代”ともいえるブームが起こっているという。NHKの調査によれば、就活口コミサイトが発表した東大生・京大生の2023年卒業生の就活人気ランキングにおいて、トップ10の半数をマッキンゼーやボストンコンサルティングといったコンサルティング企業が占めているのだ。   

 ここでは、世界トップクラスの外資系コンサルティング会社を12年間生き延びた「超絶テクニック」がSNSで話題のコンサルタント、メン獄さん初の著書『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』(文藝春秋)より一部を抜粋。コンサル社員が“圧倒的スピード”で作業できる理由をメン獄さんが解説する。(全2回の2回目/1回目から続く)


写真はイメージです ©iStock.com

いわゆる“コンサルタント”のイメージ

 さて、この本を手にとってくれた読者は、いわゆる「コンサルタント」についてどんなイメージを持っているだろうか。

 パリッとアイロンのかかったシャツにスリーピースのスーツと高価な腕時計を身につけ、ホワイトボードの前で3つの論点をMECEに(漏れなくダブりなく)並べ、クライアントに経営課題を説く―私も入社前はそんなステレオタイプなイメージしかなかった。その程度の理解しか持ちあわせていなかった私大法学部卒の私がなぜコンサルティング会社に入ったのか、当時の背景を軽く話しておきたい。

 高校時代にハイスタンダードや銀杏BOYZにはまってバンド活動をはじめた私は、ドラムにちょっとした自信があり、大学になってからは、友人たちとオリジナル曲を作っては吉祥寺や下北沢のライブハウスで月2回程度のライブをして、好評を博していた。時間を自由に使って音楽活動に専念すれば、自分の才能が世間の脚光を浴びて、音楽で食べていけるくらいの収入は簡単に得られるだろうと思っていた。

 ところが東京の音楽シーンのレベルの高さ、周囲の圧倒的な熱に飲み込まれ、根拠のない自信はしだいに打ち砕かれていった。音楽に挫折し、自分の輪郭をとり戻すために、その戦場を就職活動へと移した私は、当時人気のあった外資系投資銀行や総合総社に手当たり次第エントリーしたが、数学が足を引っ張り、それらトップ企業が足切りテストとして課すSPI(適性検査)を突破することはできなかった。

 そんな中、変わり種の私を偶然拾ってくれたのが、採用の裾野を拡げつつあったコンサルティング会社だった。

 さて、当時は、コンサルタントをめざす者たちのキャリアのスタートとなるアナリスト職は、その名前の通り、提案の土台となるクライアントを取り巻く現状の“調査・分析”業務と結果の取りまとめを主な業務としており、どちらかと言えばオーバーサイズで派手な服が多かった私もパリッとしたシャツとスーツを買いそろえ、仕事に臨む場面が多かった。

 しかし時代の流れの中で、コンサルティング会社全体の事業は多角化した。ひと口にアナリストといっても、その仕事はWebデザインに近い領域からAIを使った解析業務まで非常に多岐にわたるようになった。かつてスーツで固められていたコンサルタントの服装も事業と同様に変化した。同僚たちも、リモート形式の会議であれば相手がクライアントでもUNIQLOのフリースやスウェットシャツで参加することが一般的になっていった。

 私が会社を去る直前の日々においては、かれこれ2年間スーツを着ることはなかった。あまりにも普段着ないので、1着を残し、すべてリサイクルショップで売り払ってしまったほどだ。

 クライアント先を訪問する場合でも、ジャケットと襟のついたシャツさえ着用していれば、よっぽど明るい色でもない限り、失礼にあたることもないだろう(私はかつてデニムシャツを着ていって怒られたことがあるから、賢明な読者諸氏におかれては避けることをおすすめする)。

 このように、従来のコンサルタントのイメージも急速に変化している時代、それでもなお、コンサルタントのコンサルタントたる所以は、一体なんなのであろうか。

 その筆頭に挙げられる核心的要素は、「速度」にある、と私は考えている。

コンサルタントのアイデンティティとしての“速さ”

 コンサルタントはそれぞれ強みとなる専門性を持ち、クライアントに価値提供を行っているが、多くの場合、クライアントが期待していることは専門的知識や提案だけではない。プロジェクトという単位に切り出された特定の検討テーマについて、圧倒的なスピードで議論をリードしてくれることが期待値に含まれているのだ。

 コンサルティング企業に高額なフィー(報酬)を払って依頼することはすなわち、課題検討の特急チケットを買っているようなものだ。そのため、コンサルタントは自身とチームの仕事に対して常にスピードを求める。

 ヤマウチや西崎をはじめとする先輩たちは、とにかく「速度にこだわる」コンサルタントであった。

 まず物理的なタイピング、PCの操作が異常なほどに速かった。オフィスの中でマウスを使っているのは私だけであり、先輩たちはPCに向かう際、マウスを一切使わなかった。

 当時、会社では海外拠点での研修が頻繁に開催されていたのだが、日本オフィスのメンバーがマウスを使わずに、さまざまなショートカットを駆使してExcelを操作しているのを見て“wizard...(まるで魔術師だ)”と感嘆の声が上がるほどだった。

 私がExcelをマウスを使って操作しているのを見たヤマウチは、マウスを取り上げ、「次マウスを使っている所を見たら、手を切り落とす」と言い放った。最初は操作に戸惑ったものの、1週間もすればマウスがないことに体が自然と慣れていった。

 ここからは、スピードを生むための具体的な方法を順を追って説明していこう。

一つの作業ロットを2時間にする

 作業の指示をもらったものの、自分が一体何をすれば良いのかわからないまま時間だけが過ぎていく……。そんな経験は誰にでもあるのではないだろうか。

 私もプロジェクトに配属された当初は、ヤマウチの作業指示を理解することができず、そもそも何を考えれば良いのかがわからないままなんとなくググっては1時間各サイトを彷徨い、その結果をExcelに貼り付けては、2時間後にヤマウチにどつかれる、という毎日を過ごしていた。

 速度を身につけるためには、まずこの「迷子の状態で漫然と作業をしている時間」を徹底的に排除する必要がある。その第一歩として、1日8時間の作業ロットを2時間単位に分割したい。

 例えば朝、何か上司から指示された場合、日を跨いで結果を見せるようでは遅い。朝一で指示があれば、遅くとも午後一に、一度何かしらの作業進捗を上司に見せられるコミュニケーションが必要だ。

 なぜなら、作業の〈手戻りリスク〉を最小化するためだ。その日1日をかけてゆっくりと作業した内容が、上司の意向と全く異なるものであったことが翌日明らかになった場合、もはやリカバリーすることができなくなってしまう。入社1年目の私は、作業を1日かけて行い、翌朝に報告するようにしていたが、「え、1日かけてこれ?」「ごめん。全然指示した内容と違うが……」と差し戻されることが頻繁に発生していた。

 1日かけた作業が生産高に結びつかないことは5営業日のうちの20%が既に無駄になってしまったことを意味する。その時点で残りの4営業日でリカバリーが必要となり、本来避けるべき残業が発生してしまう。

 このような惨事を回避するために、まずは2時間集中し、その中で何かしらのアウトプットが出せるかどうかを自分で考え、そこまでの成果をぶつけよう。

 作業を進める中で20分以上手が止まる場合は2時間を待たずして、即上司に対してエスカレーション(上席への報告)することを心がけたい。20分考えて手が止まるような場合は、作業のやり方がイメージできていないことを意味する。作業の手順を具体的に指示するのは上司の仕事の一環でもあるので、その場合遠慮なく相談しよう。結果としてその方が仕事は早く終わり、かつ残業代が節約されれば、プロジェクトのファイナンスも改善しクライアントの予算を無駄にすることもなくなる。これは立派なクライアントと会社への貢献なのだ。

写真はイメージです ©iStock.com

ボールが来る場所に走る

 仕事の速度の本質は、物理的な作業スピードもさることながら、次に何が起こるのかを予測して仕事を行う“先読み”にこそあるといえる。

 鍛えられたコンサルタントの体は、「Aという事象が発生した場合はB」「Cという事象が発生した場合はD」というように、もはや考えたり悩む間もなくインプットした情報はそのまま神経を伝達し、行動に移るようになっている。そのような基本動作の集合体こそがコンサルタントのスピードの正体だ。

 コンサルティング会社を退職し別の業界に就職したOG、OBはよく、「新しい会社では同僚たちと会話のプロトコルが通じない。コンサルティング会社で働くことがどれだけ効率的で恵まれていることなのかがよくわかった」と過去を振り返る。

 世間からはプライベートのシーンにおいても横文字やホワイトボードを多用するコンサルタント仕草がよく笑いの対象となっているが、特定のシーンにおいては特定のパターンを考えるよりも先に条件的に実行する、というまさにその点こそが、コンサルティング会社が赤い彗星の如くスピード感を持って仕事を推進できる理由だ。

 簡易な例を挙げるならば、クライアントから何かしらの資料やデータを受領した場合、その資料をチームの他のメンバーが見られるような場所に格納し、格納場所を周知する。会議が終われば30分後には議事の要点と期限と担当が割り振られたToDoを展開する。これは コンサルタントであるならば誰の指示を受けるでもなく一息にできる必要がある。 

 あるいはクライアントの要求仕様書に対して、会社として提案書を作成するとなれば、提案書の目次構成と各目次ごとに記載するメッセージをまとめ、まずは骨子のドラフトとして他メンバーと議論するためのいわゆる「叩き台」を作り、提案キックオフと呼ばれるような内部会議を設定する。

 これらを一呼吸でできるのが、コンサルタントなのだ。作業が正確なのは当たり前。その上で、どれだけ速いか? このスピードへのこだわりがコンサルタントと他の職種とを分けるポイントだ。

 もちろん作業は原則としてすべて、上司の業務指示に従い行うものだ。しかし、指示を待っていて行動するのと、事前にこう動くであろうと意識しておいて日々の仕事をするのでは、結果として両者の速度は圧倒的に異なる。ボールが飛んでくる所を予測し、予め体をその場所に移動させてボールをキャッチするが如く、日々次の業務を予測しながら行動してはじめて、仕事は圧倒的に「速く」なる。

 そうした基本動作を所属しているメンバー全員が無意識に行い、メンバー間の阿吽の呼吸が実現するからこそ、コンサルティング会社の仕事は組織として「速い」のだ。

「“速い”はそれ自体が重要な価値だ」とヤマウチに叩き込まれた。

 かつてのコンサルタントは上司からよく「自分の時間あたりの単価がいくらかわかってる?」という強烈な圧をかけられながら作業をしていた。現在はパワハラ的言動について業界の自浄作用が働いており、このようなフィードバックをされることはあまりないが、コンサルタント自身は事実として知っておく必要がある。

 一般的に、総合コンサルティング企業のアナリスト/アソシエイト一人の月額単価は150万円-250万円であり、1日あたりで換算すれば約10万円。8時間の営業時間で割れば時間あたり1万2500円相当の単価になる。もし資料を4時間かけて作成すればその資料は5万円相当の価値がクライアントにとって存在しないと、割に合わない。プロジェクトごとで、安くても数千万、規模の大きなものだと億単位のお金が動く。

 このコスト意識をキャリアの早い段階で魂に刻みつけ、スピードに対するこだわりを身につけることが、コンサルタントのキャリアの第一歩になると言っても過言ではない。

仕事の段取りを先につける

 とにかく速く仕事を終わらせる、という精神論だけでは仕事は速くならない。

 上司から仕事の依頼があった時、闇雲に作業をはじめてしまうと必ずと言っていいほど失敗するだろう。初回の報告で一所懸命作った資料を持っていっても、上司から返ってくる言葉は「この作業っていつ終わるの?」「終わるイメージついている?」というものになる可能性が高い。

 本来は上司が仕事を依頼する時に細かく指示を出すのが望ましいが、非常に多忙ゆえ、アバウトな指示になりがちだ。上司からの指示に対して、以下の5つのチェック項目に沿って、「この仕事の完成形はこういう感じ」という自分なりのイメージを作ろう。

1 その仕事の目的はなんなのか?

 その仕事を終えることで、上司は何が達成できるのか。作ろうとしている資料はどういう用途で誰が読むものなのか。

2 仕事のインプットとアウトプットは明確か?

 作ろうとしているアウトプットに対して、インプットはどれを使えば良いのか。自分でインプットから探さなければいけないのか、それとももう既に上司の手元にはインプットがあるのか。また、アウトプットはどのようなファイル形式で作れば良いのか。そのアウトプットで結論として誰に何が言えれば良いのか。

3 作業手順は明確か?

 インプットをアウトプットに変換する工程の中で、自分が頭を使うポイントはどこなのか。その作業手順のイメージはついているか。

 Excelだけで完結する作業なのか。Excelだけですむならどういう関数を使うのか、それともピボットテーブル機能を使うのか。自分だけでできない作業なら、誰の助力がどの程度必要か。その助力を得るための依頼は誰から誰に行うのか。

4 提出前に誰の確認が必要な仕事なのか?

 上司の他、同僚の誰に確認を取っておけば良い仕事なのか。同僚には何を確認してもらう必要があるのか。

 

〈本記事は、『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』からの抜粋です。続きは書籍をぜひどうぞ〉


『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』(メン獄)
プロフィール

メン獄(めんごく)
1986年、千葉県生まれ。コンサルタント。上智大学法学部法律学科卒業後、2009年に外資系大手コンサルティング会社に入社。システム開発の管理支援からグローバル企業の新規事業案件まで幅広く手掛ける。2021年に退職後、医療業界全体のDX推進を目指すスタートアップ企業にDXコンサルタントとして就職。 主に大企業のテクノロジーを用いた業務改革の実行支援・定着化、プロジェクト管理、運用設計が専門領域。 コンサルティング業界の内情やDXトレンドを紹介し、仕事をよりポップな体験として提案するTwitter、noteが人気を博す。

単行本
コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル
メン獄

定価:1,980円(税込)発売日:2023年03月27日

電子書籍
コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル
メン獄

発売日:2023年03月27日

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