「沢村さん家のこんな毎日」沢村さんちの一人娘・ヒトミさん(40)が14歳年下の後輩に恋をした、甘くて苦い大人のラブストーリー『ヒトミさんの恋』。本書をいち早く読んでくださった書店員の方々の感想をご紹介します。
若者には若者なりの、大人には大人なりの恋愛のむずかしさ。
……ってことは恋愛って、いくつになってもハードモードなんですか!? ヒトミさん!!
(東京堂書店 神田神保町店 吉野江梨子さん)
恋愛がなくなるのではなく、恋愛も歳を取る。
ミリさんはその差異を見逃さない人だ。(蟹ブックス 花田菜々子さん)
わかるーと安易に言われれば、わかられてたまるかと心の中で毒づくくらいの人生経験は積んできた40代だけど、読み終えたとき、わたしはヒトミさんの肩をぎゅっとつかんで、心の底から伝えたいと思った。ヒトミさんわかる、わかるよって。(三省堂書店 成城店 大塚真祐子さん)
私はヒトミさんの年をとっくに超えてしまっていますが率直な感想は「あーーわかるーーー。自分もそうなるよ」。
ヒトミさんは、恋愛はしたいけど傷つきたくないし、今の暮らしを壊したくないので保身になるけど、年下の彼氏ができて舞い上がってしまう感じがリアル。
言葉も少ない漫画なんだけど、納得することが多く自分のことを描いているのでは?と勘違いしてしまう場面もある。
架空の人物の恋愛が自分の恋愛にすり替わる瞬間に「あーそうそう、わかるよー」と何度もうなずいてしまう。益田ミリさんの読者に響く1冊になるのでは?
これも立派な恋愛小説なのでは? 言葉だともっとドロドロ、ぐちゃぐちゃな感じで表現されるところが、益田ミリさんが漫画で描くことにより、さらっと読めてココロが時々グサッといった感じになる1冊。(有隣堂 加藤ルカさん)
いつの間にか、占いの恋愛運は見なくなった。
それは私が既婚で、三人の子供がいる母親で、恋愛という世界からずいぶん縁遠くなってしまったからだと思う。
周囲の人間関係も、ライフステージの変化にあわせてどんどん変わっていった。
結婚した時、子どもが生まれた時、専業主婦になった時。夫の転勤による転居も二度経験した。そのたびに、もともと多くなかった友人はふるいにかけるように減り続け、今や友人と呼べるような人たちはほぼいないし、ましてやヒトミさんのような独身の女性は、今私の身の回りにいない人種だ。だから、大好きな益田ミリさんの新作と聞いても、少しだけ不安だった。私にわかるだろうかと、共感することができるだろうかと。
もう、ぜんっぜん杞憂でした。
「恋」をしてみたいとすら、思ってしまいました。
私の場合、恋の記憶をさかのぼっていくと、10代、20代までさかのぼらないといけないのですが、その頃の恋はスペース・マウンテンで、40代の恋はビッグ・サンダーマウンテンだなと。
真っ暗な空間を高速で突き進む乗り物に乗せられて、そのコースの全貌も見渡すことができないまま、どこで曲がるかも、どこで上がって下がるのかもすべて乗り物次第という感じで、嵐のような体験はいつの間にか終わっていて、残されるのは抜け殻の私……。
それが、明るい場所で、レールの全貌も見渡すことができて、アップダウンを楽しんで、周囲の景色やディテールを楽しんで、なんなら記念撮影すべきスポットや、どこで手を広げて「ひゅー!」とやるか、くらいまでわかっちゃってる。コースの終わりも見えているから、「あ、そろそろ終わりそう…終点」もわかっちゃう。
どっちがいいとか、どっちが楽しいとか、つまらないとかではなくて、このくらいの距離感で恋愛を暮らしに取り入れられるヒトミさんが、最高にかっこいいなと思ったんです。ヒトミさん、作中では男性との距離の取り方だけでなく、同僚への目線もすごく良くて、弟子入りしたいくらい…。
40代になっても、まだまだ人との付き合い方を模索している私には、そんなヒトミさんの暮らしが眩しく愛おしく映りました。
昔は恋愛って「白米」だったんですよね……。
ないと死ぬ。食べないと死ぬ。一番の栄養源で、自分を動かすもので、食べないと死ぬ!とまで思っていたような節があるけど、ここで描かれる「白米」は、まず「生活」。仕事をして、両親がいて、友人がいて、お付き合いがあって、四季が移り変わって…という、暮らし。
恋愛は、「ごはんのとも」くらいの塩梅で、その塩梅がちょうどいいのなんのって…。いや、都合よく存在してほしいだなんて言いませんが、このくらいがいいなぁと、つくづく思います。恋愛のために、嫉妬したりされたり喧嘩したり、なんやら負のエネルギーを増幅させるような行為がそもそも、もう、面倒くさい……(本音)。
40代ともなると、それなりに仕事の責任やら親やら子どもの世話やら、お金やら健康やら、「死ぬこと」を意識し始めたり、あと●年で死ぬとしたら…という妄想をすることだってあるし、私の暮らしの円グラフはもうそれだけでいっぱいいっぱいなので、その円グラフ崩してまで「恋愛」を入れようってなかなかならないんですよね。
この円グラフが崩れない「ヒトミさんの恋」が、とても良かったです。
というか、私が恋愛をしていなかった期間に、もしかして世の中の恋愛観って、アップデートしてた?今はこれがスタンダードだったりする?
人と人との距離の取り方も変わってきているし、昔はこれが良しとされていたけど、今はこうしたほうがいいねってことも多くあるじゃないですか。ヒトミさんの恋も、「40代だから」じゃなくて、もしかして「令和の主流」になりつつある…?
「不惑」という境地にはなかなか達しない毎日ですが、このくらい「不惑」な恋愛を楽しんでみたいもんだ。
恋に恋する から
恋に恋する 自分を慈しむ ような。
冷蔵庫にプリンがあるちょっとした無敵状態、みたいな。
恋愛のことだけではなく、描かれている暮らしそのものに、すごく共感しました。
ヒトミさんを通してみる世界は、ちょっとした暮らしを楽しむポイント。
見るべきところ。
私が見落としていたところ。
いつもスマホ片手に歩いている道を、スマホを持たずに歩いてみる。というような経験に似ているかも知れません。益田さんのデトックス効果は、本当にすごい。やはり定期的に益田作品を読んで、心のおりを溶かしておかなければ!
そう強く実感した、「ヒトミさんの恋」読書レポでした。
(ホンフルエンサー 本間悠さん)
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