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オカルト? 本格ミステリ? 答えは“七不思議”の中に!『でぃすぺる』(今村昌弘)

オカルト? 本格ミステリ? 答えは“七不思議”の中に!『でぃすぺる』(今村昌弘)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

『でぃすぺる』(今村 昌弘)

 デビュー作『屍人荘の殺人』で、ある特殊な設定を活かしたクローズドサークルを案出し、一躍注目を集めた。昨今ブームの特殊設定ミステリの旗手ともいえる今村さんの、初のノンシリーズ作品となる本作は〈オカルト×本格ミステリ×ジュブナイル〉、3つを贅沢に掛け合わせた意欲作だ。

「小学6年生の3人組を探偵役にしたのは、若々しいエネルギーを作品に取り込みたかったから。これまで特殊設定を使うとどうしても陰惨な事件になりがちだったので……。小学生がどのくらい推理できるかは迷いどころでしたが、自分を振り返っても、周囲でお子さんのいる人に聞いたりしても、知識量の多寡こそあれ、思考力というのは大人とそんなに変わらないですよね。むしろ、体力や体格が不利でも武器にできるのがロジックの良さですし。子供たちが暗いものを突破していく姿を描きたいと思いました」

 人口減少傾向にある地方都市に暮らすユースケ、サツキ、ミナ。性格も家庭環境も小学校での立場もバラバラの3人だが、学級の掲示係として一緒に壁新聞作りに取り組むことになる。オカルト好きで、壁新聞でもネタにしたいと考えるユースケは、優等生のサツキが許さないだろうと警戒するが、意外にも彼女の方から「死んだ従姉が遺した七不思議を記事にしよう」と提案される。怪談の現場らしきトンネルに出かけていく3人だが、調べるほどに、怪談の“違和感”と従姉や関係者の不審死の繋がりが浮かび上がってくる。人智の範囲で推理を進めるサツキと、怪異の存在も含めて推理するユースケ、両者のジャッジ役を務めるミナは、大量の蔵書に囲まれて暮らす“魔女”の力を借りながら怪談の謎を追う。7つ目を知ると死ぬという七不思議が示す真相は――。

「特殊設定を用いず、現実世界と同じルールでオカルトを描いて、読者に納得してもらうにはどうすればいいか、という挑戦です。そもそも本格ミステリ自体が、読者と作者の間に一定の了解があって初めて成立する、曖昧さを内包したジャンルだと思います。特殊設定ミステリは、その上さらに作品ごとに独自ルールを提示する。ユニークな小説を作れる一方で読者に負担を強いているのではないかという気持ちが湧いてきて、今回は思い切って“本格ミステリの曖昧さ”を逆手にとることでオカルトも含めたすべてが疑う対象になる構造を目指しました」

 題名は〈祓う〉〈晴らす〉という意味のdispelから採った。七不思議だけでなく、ミステリ好きの“了解”をも吹き払うような結末が待っている。


いまむらまさひろ 1985年長崎県生まれ。2017年『屍人荘の殺人』で鮎川哲也賞を受賞しデビュー。同作で本格ミステリ大賞受賞。近著に『兇人邸の殺人』など。


(「オール讀物」11月号より)

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