- 2024.09.06
- 読書オンライン
TBS金曜ドラマ「笑うマトリョーシカ」で櫻井翔さんが演じる清家一郎という人物について。
早見 和真
『笑うマトリョーシカ』(文春文庫)
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
TBS金曜ドラマで放送されている「笑うマトリョーシカ」が、謎が謎を呼ぶ展開で、話題となっている。未来の総理候補とされる清家一郎を操る人物は誰なのか、という疑問に加えて、視聴者、読者の話題となっているのは、国民から絶大な支持を受ける清家という人物がホンモノか、ニセモノか、というところだ。原作者の早見和真が、「清家一郎」についての思いを綴った。
◆ ◆ ◆
正直に記せば、少し勇み足かなという気持ちもあった。『笑うマトリョーシカ』文庫化に際しての、「担当編集者より」というコラムにある文言だ。
「(早見さんは小説の主人公を)『櫻井翔さんをイメージして書いていた』ともおっしゃっていました」
ウソではないが、おそらく言葉は足りていない。
本を読んでくださった方には真意が伝わるという確信があったけれど、そうでない方々にはどう捉えられるだろうという不安があった。
『笑うマトリョーシカ』の小説上の主人公・清家一郎は、二十を超える自作の中でもトップレベルで思い入れのあるキャラクターだ。
周囲の人間を惹きつけてやまない、しかし心の内を簡単には探らせない。いつもやわらかい笑みを浮かべていて、勝手にこちらがその人間性を深読みしてしまう。
そんなイメージをずっと持ちながら、いざキャラクターとして立ち上げようとしたとき、具体的な姿をなかなか思い描けずにいた。
夜のニュース番組に出演する、ある人物を見た時に
物語の大枠も頭にあった。しかし、肝心の主人公像に一向に芯が通らない。何日も、何日もパソコンに向かい続け、いい加減ウンザリしかけていたある日、ふとつけたテレビに、夜のニュース番組に櫻井さんが出ているのを見たとき、天啓を得た気がした。
清家一郎と櫻井さんが似ているわけではない。
そもそも櫻井さんの実際の人間性を知る立場でもない。
僕が感じ取ったのは、櫻井翔というタレントの持つ完璧なパブリックイメージだ。経歴も、実績も、振る舞いも、言葉も、ほぼすべてにおいてパーフェクトというイメージと、それが好悪どちらであったとしても極めて一方的な世間の目。
「もしこの人が胸に○○という思いを秘めていたらおもしろいな」
だからといって櫻井さんをイメージして書いたわけではないけれど、そう思ったとき、清家一郎というキャラクターに魂が宿ったのは間違いない。
ドラマチームの監督、プロデューサーとはじめて顔を合わせた日、隠さずにその旨をお伝えした。
のちに櫻井さんに決定したと聞いたときは、しみじみと喜びが込み上げた。
迷惑をかけてしまっているのでは? 櫻井翔さんに伝えた言葉。
一方で、懸念もあった。
『笑うマトリョーシカ』は、政界の裏側を綴った物語ではない。人間の持つ業や醜さ、相反する純粋性を描こうとしたものだ。
そしてもう一つ、人を外見だけ、イメージだけで判断することの危うさも記したつもりだ。そのテーマは、きっと最終回で描かれるであろう清家の「○○」というセリフに集約される。
それでも、そこに至るまでに、まさに外側だけで批判される危険性は孕んでいる。ひょっとしたら迷惑をかけているかもしれないと、撮影現場にお邪魔した際、二人きりになったときを見計らって、櫻井さんにその旨を伝えた。
櫻井さんは「とんでもない」と笑顔で手を振った上で、「清家一郎という人物に出会えて幸せな毎日です」と言ってくださった。原作者に対してそう言う他ないということは理解しつつ、肩の荷が少しだけおりた気がした。
キャスト、スタッフのみなさんの情熱と尽力もあり、『笑うマトリョーシカ』は、原作と映像がすごくいい関係を結べている。
小説を読んでいたらドラマをよりおもしろく見られるという希有なケースかもしれない。
ドラマは半分を越えたあたりだろうか。きっと清家の「○○」に向けて突き進んでいく物語を、僕も引き続き楽しみにしています。
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TBS系列 金曜ドラマ「笑うマトリョーシカ」
よる10時 絶賛放送中
出演 水川あさみ 玉山鉄二/櫻井 翔
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/waraumatryoshka_tbs/
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