
虚々実々の政界を舞台に人の業を描く
「人の持っている業を小説で描きたい」
そう語る著者は代表作『イノセント・デイズ』で、凶悪犯とされる人物は本当に悪人で死刑に処されるべきなのか、を問うなど、このテーマに向き合い続けてきた。そんな著者の最新作は、若くして官房長官に上り詰めた代議士と、それを支えた同級生秘書の物語だ。
「執筆の前にたくさんの政治家や秘書に話を聞きました。いい取材ができたという手応えがあっても、ふと考えると『相手の流れに乗せられただけではないか』と感じたりすることもあり、政治の世界は『騙し騙され』が当たり前だと痛感しました。ですが政治小説を書きたかったわけではないんです。人間の『歪(いびつ)さ』を書こうと考えた時に、ふさわしい舞台が永田町だったんです」
“政治家になって、この国を変える!”四国・松山の名門高校に通う二人の青年の夢が一つに重なった。ひとたびスピーチをすれば、聴衆を惹きつける、カリスマ的な魅力を持った清家一郎。彼を秘書として支える鈴木俊哉。鈴木の戦略が成功し、清家は官房長官の座をつかむ。序盤の展開は、まさに青春小説だ。
ところが物語は突如、トーンを変え、ミステリーの色合いを増していく。
官房長官を取材した女性記者は、「この男はニセモノだ。誰かの操り人形にすぎない」と感じ、彼の過去を暴くために動き始める。事実、清家が権力の中枢に駆け上がる過程で、数々の不審な出来事が起きていた。
若き官房長官は「ホンモノ」か、「ニセモノ」か、という謎も読みどころの一つだ。
インタビュー取材中の様子だけで、人を評価する記者。秘書鈴木に代わって、代議士を操ろうとする謎めいた女たち。耳ざわりの良い演説を聞いて、政治家に投票する有権者。
彼らには、清家一郎の本当の姿が見えているのか。
「自戒を込めて言いますが、私たちは、他人のことを『こういう人だ』と決めつけて安心することが多いと思うんです。私も『早見はこうだ!』と決めつけられるたびに、『分かってたまるか!』と反発していました。登場人物の誰かが発する『見くびるな』というセリフが、この物語をラストシーンへと導いてくれたと感じています。
人を見くびったことのある人、見くびられて傷ついた経験のある人、つまりすべての人に読んでほしいと願っています。この社会の生きづらさの要因が、そこにあると思うからです」
マトリョーシカの最深部に鎮座するものの正体を知った時、私たちには、どんな世界が見えるだろうか。
はやみかずまさ 一九七七年、神奈川県生まれ。二〇〇八年作家デビュー。『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞、『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞を受賞。
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