- 2024.02.01
- 読書オンライン
「滅多にないことだけど、『いいの、書いた!』と思った」直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』について万城目学さんが語っていた“たしかな手応え”
「本の話」編集部
直木賞受賞作・万城目学『八月の御所グラウンド』
2024年1月17日に行われた選考会で、第170回直木賞を『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)で受賞した万城目学さん。
2006年の作家デビューからわずか1年、2007年に『鹿男あをによし』(幻冬舎)が初めて直木賞候補に選ばれてから、この17年で5度も作品が候補となってきたが、残念ながら選外が続いたが、今回6度目のノミネートでの悲願の受賞となった。
飄々としたキャラクター、でも、ときには本音が……
直木賞選考委員の林真理子さんが、受賞作について「日常にふわっと入り込む非日常が、本当に巧みに描かれている」と評したように、万城目さんはこれまで日常と非日常が思いもよらない形で交わっていく物語を書いてきた。いずれの作品も、どこか飄々としていて味わい深く、予測不能の面白さや感動に満ちている。本作もまた、その「万城目ワールド」の面目躍如たる作品といえるだろう。
万城目さんご自身もまた飄々として、実に味わい深いキャラクターの持ち主。受賞会見での受け応えでも「(選考会当日は)とれるわけないと思って、すねていた。作家の森見登美彦さんたちと脱出ゲームをやっていた」「(直木賞受賞について)たまに隣に来るけど目線が合うことなく別れてきた。今回『多生の袖が触れ合った』感じですね。ここから先はよくわかりません」といった調子。自身の作風についても「ストレートを投げようとしても、ナチュラルにスライダーになってしまう」と、発する言葉もまた「万城目ワールド」全開だ。
「滅多にないんですけど、『いいの、書いた!』と思えた」
だが、ときにはストレートに本音を語ってしまうことがあるようだ。
2023年8月、受賞作が刊行されたタイミングで、万城目さんはTBS系の「王様のブランチ」でインタビューを受けている。作品の舞台であり、万城目さんも学生時代を過ごした京都の鴨川べりをインタビュアーとともに歩きながら、思わず発した一言に、本作への自信が込められている。
「滅多にないんですけど、『いいの、書いた!』と思えた作品です」
今回は、その昨夏のオンエアの模様をダイジェストでお伝えするーー。
物語の舞台であり、学生時代を過ごした京都でインタビュー
綾瀬はるかさん、多部未華子さんらの出演でドラマ化された『鹿男あをによし』や、綾瀬さん主演で映画化された『プリンセス・トヨトミ』をはじめ、歴史をモチーフに、現実と非現実が入り交じるストーリーで多くの読者を獲得している人気作家・万城目学さん。
その万城目さんの最新作が、この8月に刊行されたド直球の青春ファンタジー小説『八月の御所グラウンド』(文藝春秋刊)だ。
京都大学出身で、2006年のデビュー作も京都を舞台にした青春ファンタジー『鴨川ホルモー』と、京都にゆかりの深い万城目さんだが、意外にも京都を舞台にした作品は本作がなんと16年ぶり。
ということで、TBS系『王様のブランチ』のインタビューも、まさに真夏の京都で行われた。
インタビュアーの鈴木美羽さんと万城目さんが待ち合わせたのは、物語にも登場する、鴨川にかかる賀茂大橋。鴨川べりを歩きながらインタビューはスタート。
――どうですか、実際、京都を舞台に作品を書かれてみて?
万城目さん「滅多にないんですけど、なんだか、『いいの、書いた!』という思いがありました。書いた後、いつもと少し違うなにかがありましたね」
2人は、スパゲティとケーキの名店、セカンドハウス出町店へ。「ここ、物語に出てくるお店ですよね。実際にあるんですね!」と鈴木さんもテンションアップだ。
「生者と死者が交わる場所、という切り口で京都を描いたら……」
新作は表題作と、女子全国高校駅伝で都大路を走る女子高生が主人公の「十二月の都大路上下(カケ)ル」の2編が収録されているが、番組では表題作『八月の御所グラウンド』を紹介。
舞台は8月、夏の京都、主人公は大学生の朽木(くちき)。彼女にフラレたばかりで何もやる気が出ない日々を過ごす朽木が、友人の多聞から無理やり誘われ、早朝の御所グラウンドで開催される草野球試合に出場することに。
寄せ集めのメンバーはときに足りなくなるため、野球経験のない留学生のシャオさんも参加したりと、試合が成立するかはいつもギリギリ。
ある時、いよいよメンバーが揃わなくなった時、シャオさんが「それならば、誘いましょう」と、偶然そこに立っていた男性をスカウトする。
草野球への参加を快諾してくれた「えーちゃん」は、試合が始まるとピッチャーを担当。
相手バッターが守備の穴であるシャオさんのセカンドを狙っているのを知ると、その卑怯な攻め方に腹を立てたのか、「えーちゃん」は「まっすぐ、真ん中」を宣言。大きく振りかぶると、とんでもない剛速球を投げ込んだ。
その試合から数日後、朽木はシャオさんに話があると呼び出され、そこである昔の画像を見せられる。
そこには「えーちゃん」と瓜二つの人が写っていた。
ただ、その人はもう、この世にはいないはずの人物だった。
そこで朽木とシャオさんは、「えーちゃん」の正体を探りはじめる。
――この物語は、どうやって生まれたのですか?
万城目さん「生者と死者が交わる場所、という切り口で京都を描いたら、なにか書けるんじゃないか、というアイデアが、あるときフッと湧きまして。それがきっかけでした」
主人公たちの姿を借りて、ちょっと前に進めるような言葉を
「えーちゃん」と古い写真の人物は、他人の空似か?
そうでなければ、なぜ「えーちゃん」は京都にあらわれたのか。
そして「えーちゃん」は野球にどんな思いを抱いていたのか?
「みんな、野球がやりたかったんだ」――。
万城目さん「なにかしらひとつの出来事を経て、僕なりに主人公たちの姿を借りて、ちょっと前に進めるような言葉を残しているので……」
――読んだ人に一歩、勇気を与えてくれるような、そんな言葉を。
万城目さん「そうなっていたら嬉しいな、と思っています」
まさに夏の京都が生んだ奇跡の作品だ。
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