
放課後に遊べない小学生たちが増えている――。
『子どもの体験 学びと格差』(文春新書)を上梓した教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏と、「小学生の放課後の過ごし方調査2025」を発表して話題を呼んだ「放課後NPOアフタースクール」代表の平岩国泰氏が、子どもたちの放課後を「ゴールデンタイム」にするために何が必要かを語る。
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現代の子どもたちを不幸にしている大人の思考とは?
おおた 「放課後NPOアフタースクール」は放課後に子どもたちがすごす環境を全国につくっていますが、一般的な学童との違いについて、教えてください。
平岩 共働きじゃないと入れない学童に対して、アフタースクールはすべての子どもたちに開かれている点がいちばんの違いです。そして、ただ部屋ですごすのではなくて、いろいろな活動ができるということが2点目の違いです。さらに、これらを叶えるために、学校施設を利用するというのが私たちのやり方です。学校施設を利用した学童もありますし、私たちも学童を併設している場合がありますけれど。
おおた 費用は?
平岩 公立小学校については公的に予算がついていて、自治体によって無料の場合もあれば、保護者が負担する場合もあります。私立の場合は保護者負担100%で、利用したぶんだけ費用が発生します。

おおた 先般、団体の理念をリニューアルされました。
平岩 私たちの活動を社会全体の活動にアップデートしたい思いを、「日本中の放課後を、ゴールデンタイムに。」というミッションと、「子どもたちが、いまも未来も幸せに。」というビジョンに込めました。「未来の幸せのために、今はこれをせねばならない」とか、「いまこれをしておかないと大変なことになりますよ」みたいなことを、結構大人は考えちゃいますよね。でもやっぱりいまの子どもたちの幸せ、子どもたちがいまどうしたいかっていうのを積み重ねていった先に将来の幸せもあるのかなと思うので、両方大事にしたい思いを表しました。
おおた 愛と責任感ゆえに、大人たちは、子どもたちの未来を勝手に案じて、結果的に子どもたちの「いま」を、過小評価してしまったり「将来」に束縛させてしまったりします。それが、現代の子どもたちをめぐるいろんな不幸の原因になっていると私も思います。
平岩 本当にそうですね。
低所得世帯の子どもは週一度も友達と遊べない
おおた そんななか「小学生の放課後の過ごし方調査2025」を発表されました。低所得世帯のお子さんの習い事が少ないとか、旅行の経験が少ないとか、そりゃそうだろうと思うわけですが、年収300万円未満の世帯の子どもたちの過半数が週一度も友達と遊べていないというのはショッキングなデータです(図)。低所得世帯の子どもたちは、友達と遊ぶ頻度が少なくて、遊びのバリエーションも少なくて、大人とのかかわりも少ない。なぜこんなことになっているのでしょうか?

平岩 考えられる理由の一つは、習い事でお友達ができたり、家族同士がつながったり、コミュニティができていく状況が、現代社会ではすごくあるなと思ってて。サッカークラブの子たちはサッカークラブの子たちで仲良くなる。もう一つは、低所得世帯は社会的な接点がもともとすごく少ないのではないかということ。もしかしたらおひとりで育てているかもしれない状況で、児童館に連れて行ったり、おじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行ったりという習慣がなかったのかもしれない。そのまま小学校に上がってしまっている可能性があるかなと思います。加えてたぶん、いまの子どもたちは、約束をせずに遊ぶっていうことが成り立たない状況がよくあります。あそこに行けば誰かいるはずという場所がないので。親同士がLINEでつながっていないと、遊びの仲間にも加われない。
おおた だとすると、考えられる方法は二つあって、一つはみんなに習い事をしてもらう。しかもできるだけ多いほうが、多くのコミュニティに所属できる。そのぶん「遊ぶ時間がない」って話にもなりますが。もう一つは、昔の空き地や学校の裏山のように、「あそこに行けば友達に会える」と子どもたちが思える場所を、再生していく。どちらが望ましい社会だと思いますか?

平岩 私としてはもう明らかに後者です。厳しいご家庭に習い事の費用を支援することは必要ですが、それをずっと続けるだけでなく、根本解決できるといいなと思います。費用はなんとかなっても、親御さんが送迎できないというケースもあります。時間がないというだけではなくて、そういう場所での親御さん同士のかかわりに気後れする方もいます。
おおた 正直な心理として、それはあるでしょうね。
平岩 あそこに行けばみんなに会えて楽しい時間がすごせると思える場所が全員に対してあることが根本治療だと思って、私たちの団体は活動しています。学校施設を活用すれば親御さんの送迎はいらないし、「市民先生」と呼んでいる地域の大人たちの力を借りることでスポーツも図工も料理も気軽に体験できる。
おおた 習い事と違って、いろいろな年齢のいろいろな子どもたちがいっしょに遊ぶこともできますし。
平岩 結構重い障害をもっている特別支援学校の子でも、ダンスとかやるとみんなといっしょに上手に踊るんです。高学年の子たちがその子の面倒を見るのが好きだったりもして。
プロの指導者ではないからできるかかわりもある
おおた さきほどの調査結果からは、子どもたちの「もっと遊びたい」という気持ちも伝わってきますよね。2023年度の調査でも、子どもたちは家族とのんびりすごしたり、友達と遊んだりする時間を求めていることがわかっていました。それが子どもたちが望む「ゴールデンタイム」なわけですよね。空き地や学校の裏山は立ち入り禁止になり、公園ですらボール遊びはおろか大声を出すことすらできない現代社会において、子どもたちのゴールデンタイムを取り戻す活動として、アフタースクールがある。
平岩 やっぱり子どもの声から始めるのが大切だと思ってます。言い換えると、子どもたちが自由にすごし方を選べることが大切です。アクティブにすごしたい子もいれば、家族とのんびりしたい子もいる。それが権利として保障されるべきだと思うんですよね。学校の時間はどうしても「1時間目はこれをやりましょう」ってはめ込まれちゃう。でもそれが終わったあとは、子どもが自分のやりたいことをできる社会にしていきたい。アフタースクールでは、本当に何もしないですごしてる子もいますし、ときには寝てる子もいます。一方でやっぱり世界を広げる可能性は大事にしてあげたいなと思います。「何をするかより、誰とするか」と言いますが、やっぱりひととの出会いが多ければ、それはいいだろうなと思うんですよね。

おおた やりたいことがなんでもできるわけではないだろうけれど、ただあきらめるんじゃなくて、どうやったら少しでもそれに似た体験ができるかをいっしょに考えてくれる大人が近くにいることが、子どもにとってはすごく大切なことのように思います。
平岩 実際、私たちが「子どもたちにこんなプログラムを提供したいから市民先生として協力してください」とお願いするよりも、「子どもたちがこれをやりたいと言っているので力を貸してくれませんか?」とお願いするほうが大人を巻き込みやすいんです。ある場所では、理髪店のおじいさんがアフタースクールで将棋を教えてくれることになりました。最初は戸惑っていましたが、いまでは「週1回のアフタースクールが生きがいだ」と言ってくれています。
おおた 市民先生が戸惑いながら教えてくれるというのも、プロの指導者が“正しい”プログラムに沿って教えてくれるのとは異なる意味合いを子どもたちにもたらすと思います。学校みたいに“正しい”指導者が子どもを引っ張るのではなくて、「これ、どうすればいいの?」みたいな子どもの「?」を主体にしたかかわりができそうです。言われたとおりにやって早く上達することよりも、そういう回り道みたいなやりとり自体に、子どもにとっての大きな学びがあるように思います。あそこに行けば友達にも会えるし、何かをしようと思ったら助けてくれる大人がいるし、何もしなくても誰も文句言われないし。
平岩 それが放課後ですものね、もともとね。
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