
- 2025.06.25
- 特集
編集長が語る【オールの讀みどころ】 2025年7・8月号は総力特集「怪奇と警察」&松本清張賞&高校生直木賞&「本屋さんへ行こう!」第2弾
文:「オール讀物」編集部
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
,#歴史・時代小説
「本の話」を読んでくださっているみなさん、ご愛読ありがとうございます! 「オール讀物」編集長の石井です。
5人の精鋭でつくっているオールの裏話、日常のよしなしごとについては、note不定期連載の編集部だより「オールの小部屋から」で発信しておりますので、チェックしてみてください! 定期購読者向けにニューズレターもお送りしております。こちらもぜひ、定期購読をお申し込みの上、お楽しみいただけたら幸いです。
……と、記したところで、人事異動の内示がありまして、私、今回の7・8月号を最後に「オール讀物」編集部を離れることになりました。編集長在任中の2年間、「本の話」連載の「オールの讀みどころ」をお読みくださり、本当にありがとうございました。私からお届けする記事としては、これが最終回となります。
では最新号について、渾身の企画を紹介してまいります。「オール讀物」7・8月号の目玉を2つ挙げるならば、総力特集「怪奇と警察」と、前号から続く「本屋さんへ行こう!」第2弾となるでしょう。

夏は怪奇と謎解きの季節。すでに猛暑、酷暑の毎日ですから、せめて小説の中では背筋の冷えるような怪奇幻想、あるいは冷酷冷徹な警察ミステリの世界をご堪能いただけたらと思っています。
まずは【怪奇】部門。2年前に企画した〈江戸の祭り〉特集(オール讀物2023年5月号掲載「氏子冥利」)以来となる宮部みゆきさん「三島屋変調百物語」の最新話「丁稚小僧と鬼と蝦蟇(がま)」150枚を一挙掲載しています。じつは今、三島屋は大変な災難に見舞われていまして(三島屋変調百物語拾之続『猫の刻参り』新潮社刊を参照のこと)、凶事から立ち直り、ふたたび商売を始めるために、関係者が一致団結して「ある大勝負」に挑むのです。長く続くシリーズですが、「初めて三島屋を読んだらあまりに面白くて、1巻から順に読んでます」という編集部員もいるほどで、本作からシリーズに入っていただいてもまったく大丈夫! もう1つ、オールの【怪奇】といえば、夢枕獏さんの「陰陽師」にとどめをさします。今号の「カタリ爺」(前編)では、晴明や博雅はもちろん、おなじみ藤原兼家も登場します。
かたや【警察】部門は豪華絢爛、人気作家そろい踏みとなりました。誉田哲也さんの力作「アイズ いつか永遠という名の瞳」では、身元不明の腐乱死体から始まった一連の事件の真相がついに明らかに。警視庁公安部を舞台にした重厚な物語であるとともに、心を揺さぶられるエモーショナルな読み味をも兼ね備えた傑作です。
新鋭、荒木あかねさんの新作「プライドの隙間」は、警察署内で警官が拳銃自殺し、その拳銃がどこかに消失してしまう事件の顛末を描きます。警察にとって同僚の自殺だけでも大変なのに、よりによって現場から拳銃が消えたらこれはもう大事件、大スキャンダルです。警察署を封鎖し、一刻も早く銃を見つけ出さねばならないタイムリミットサスペンス。荒木さんの新境地といえるのではないでしょうか。
同じく新進気鋭の鬼才、方丈貴恵さんの新シリーズが発進します。「メゾン・イニシェの怪」では、オカルトマニアのキャリア警視と頭脳派の科学捜査官とが殺人事件をめぐって丁々発止の推理合戦を繰り広げます。ここからシリーズを追いかけていただきたい注目作です。
新刊『嘘と隣人』が話題の芦沢央さんは、「退職刑事」シリーズのシーズン2が開幕しました。赤川次郎さん「幽霊シリーズ」ほか、大山誠一郎さん「赤い博物館」、長岡弘樹さん「交番相談員」の新作も載っていますし、堂場瞬一さんがセレブ担当刑事を描く「死と金」、真山仁さん「オペラティオ」もクライマックスにさしかかっています。文庫『いけない』『いけないII』が話題騒然の道尾秀介さんインタビュー「『体験型ミステリ』は進化する」も要チェック!
隔月刊化によって、2つの賞の発表が今号に集中しました。1つは第32回松本清張賞。激しい議論の結果、住田祐さん「白鷺立つ」の受賞と決しました。進境著しい清張賞出身作家のみなさんにサバイバル術を聞いた対談2本も必読です。今回で選考委員を退任される森絵都さんと『高宮麻綾の引継書』著者・城戸川りょうさんのトークイベント「苦しみ汁を出せ!」と、第30回受賞の森バジルさん×第31回受賞の井上先斗さん「僕らが次作を書けた理由」を掲載しました。

もう1つは、おなじみ高校生直木賞。12回目を迎える今回、全国47校の高校生たちは、月村了衛さん『虚の伽藍』を受賞作に選びました。全国大会のゲストに文芸評論家・三宅香帆さんをお招きし、高校生との交流の時間をもったのですが、「(三宅さんの母校である)京都大学文学部に進みたいんです」と、世界史用語集にサインをもらう高校3年生の姿も。グラビア&ルポ、さらに三宅さんのエッセイ「違和感を言葉にする」で、高校生たちのみずみずしい議論の模様をお伝えしています。


骨太の社会派小説として話題沸騰中の塩田武士さん『踊りつかれて』。現在のSNS社会、過度に情報化が進んだ社会に対して塩田さんが抱く違和感、もっといえば怒りや苛立ちを表明した本書は、誹謗中傷、フェイクニュース、捏造報道のリアルを克明に描きだします。つまり私たち雑誌メディアに対しても、重たい問いかけがなされている作品なのです。そこで『踊りつかれて』を連載していた「週刊文春」の編集長・竹田聖さんを招いて、塩田さんの疑問にしっかりと答えてもらう対談を企画しました。「芸能人は公人なのか」「不倫、熱愛報道はいつまで続けるのか」――「『週刊文春』編集長、すべての疑問に答える」をぜひお読みください!

さて、お待たせしました。今号の左トップ企画「何度でも本屋さんへ行こう!」には、今回、瀬尾まいこさん、坂木司さんが登場。“書店を舞台にした短編”の競作といっても、おふたりそれぞれまったく雰囲気が異なります。瀬尾さんの「続きは書店で」は、『強運の持ち主』に登場した占い師ルイーズが久しぶりに登場。坂木さんの「手に取って見てみろよ」(前編)は、「本屋の前でふられた。」という衝撃の一文から物語の幕が開きます。
もう1つ、前号の伊坂幸太郎さん「POP対決!」に続いて、今号でもリアル書店さんを絡めた企画をやりたいと思い、高校生直木賞とコラボして「高校生が図書カード2万円で本を買う!!」をおこないました。高校生直木賞の参加常連校に図書カードを送り、近隣書店へ出かけてもらって、予算内で自由に本を選んでもらうという趣向。生徒たちから届いた写真や感想文を掲載していますが、選書もさまざま、感想もさまざまで、とても楽しい試みになりました。なお、高校生直木賞に特別協賛してくださっている日本図書普及株式会社さまから「図書カードNEXT」をご提供いただきました。いつも本当にありがとうございます!

こちらも恒例企画。いよいよ来月に迫った第173回直木賞の候補全6作の作家インタビューを掲載しました。候補が決まった瞬間にインタビューを依頼するので、締切に間に合うかいつも冷や冷やするのですけれど、無事6名のみなさんの記事をつくることができました。選考会は7月16日。どうか結果をお楽しみに!
(候補作)
逢坂冬馬『ブレイクショットの軌跡』/青柳碧人『乱歩と千畝 RAMPOとSEMPO』/芦沢央『嘘と隣人』/塩田武士『踊りつかれて』/夏木志朋『Nの逸脱』/柚月裕子『逃亡者は北へ向かう』
人気時代小説として2編。坂井希久子さん「江戸彩り見立て帖」の最新作「天地をつなぐ」を読むと、夫婦の幸せや悩みは江戸も今も変わらないのだなとしみじみ感じます。あさのあつこさん好評連載「八州の風手控え帳」では、捕らえたはずの悪人が牢の中で殺されます。毒饅頭を差し入れたのは誰なのか? 解決したはずの事件が急展開を見せます。
現代小説読み切りには珠玉の3編がそろいました。原田ひ香さん「毎日、揚げもの」、宮下奈都さん「アスファルトの花」、久しぶりの登場となる姫野カオルコさん「セーマル・コエン」。ほんわかした題名からは想像もつかないくらいヒリヒリした世界が描かれていく原田作品。一文一文は軽やかなのにずしりと重たいものが残る宮下作品。自伝的短編で、著者ならではの繊細な文体によって美しい世界が紡がれる姫野作品。いずれも巻を措くあたわず、梅雨を忘れさせてくれる鮮烈な読書体験をお約束します。
読みもの、コラムも充実です。まずは酒井順子さんの新連載「女子校文学」。女子大の定員割れ、募集停止、共学化などのニュースが世間を賑わせる昨今、あらためて女子校が担ってきた文化の源泉に迫ります。THE ALFEEデビュー51周年の夏、髙見澤俊彦さんと神田明神・岸川雅範さんがタッグを組む神道入門「神様について語ろう」がついに最終回を迎えます。日本の神々の魅力から、神仏習合といった難しいテーマに至るまで、楽しくわかりやすく紹介してきた本コラム。最終回は知られざる平将門と神田明神の関係、髙見澤さんが神様に興味をもったきっかけなども語られます。髙見澤さんの歴史SF&AI長編「イモータル・ブレイン」も連載再開です!
単行本にして5冊分。質量ともに充実の「オール讀物」7・8月号をどうぞよろしくお願いいたします! そして、編集長としてこの2年、ご愛読くださったみなさまに、改めて心からお礼を申し上げます。次号から新体制でお届けするオール讀物を、ひきつづきどうか応援してください。

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『戦争犯罪と闘う』赤根智子・著
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