家にまつわる実録ホラー『ヤバい実家』を上梓した、呪物コレクター・はやせやすひろさんと、同時期に初小説『渋谷神域』を刊行した灯野リュウ(ミルクティー飲みたい)さん。共にYouTuberとして絶大な人気を誇り、かねたから親交の深いお二人による、刊行記念対談が実現しました。

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はやせやすひろ(以下、は):『渋谷神域』、めちゃくちゃ面白かったです! その脳みそが欲しいと思いました。

ミルクティー飲みたい(以下、ミ):ありがとうございます(笑)。僕はYouTube界隈での繋がりが濃い方ではないのですが、その中でも都市ボーイズさん、そしてはやせさんが好きで。今日はとても楽しみにしてきました。

:最初にお会いしたのは、ミルクティーさんが主催されていたニコ生の番組でした。3、4年くらい前ですね。

:はやせさんからは“反骨精神”みたいなものを感じて、そこに惹かれるんです。とても人気もあって、YouTuberというエンタメの王道を行っているのに、ただ自然の流れに身を任せるのではなくて、常に何かに抗っているというか。

:そういうところは若いときからずっとありますね。自分が立ち上げた企画であっても、それが大きくなるとなぜか壊したくなってくる。

:フランス人っぽいですね。論理の積み上げ方って国によって違うのですが、フランス人は物事を考えるときに、テーゼとアンチテーゼを常に頭に置いているらしいんです。つまり、Aという主張をするとしたら、必ず頭のどこかにその反対の意見を置いておく。はやせさんからはそういう思考の仕方を感じます。

:初めて言われました。これからはフランス人として生きていこうかな。

はやせやすひろさん

“神隠し”をごまかさない

:『ヤバい実家』に収録されている作品も、すべてはやせさんが実際に聞いたエピソードですよね。それをクダマツさんが執筆している。複雑な構造をしている本だと思いますが、

 はやせさんの話し方が脳内再生できるような一冊だったので、驚きました。

:僕もビックリしました。初めて読んだときに、上手く登場人物の一人としての〈はやせ〉を作っているな、クダマツさんにお願いして良かったなと思いました。

:オカルト知識とか信仰とか情報も色々と入っていて、とても面白いです。

:『渋谷神域』もかなりの情報が落とし込まれていますよね。前情報がなくても楽しめるように、分かりやすく整理されている。沖縄の石を持ち帰ってきてしまう話も面白かったです。僕も沖縄の久高島に行ったとき地元の人に言われましたよ。「持って帰ったりすると酷いことが起こるからね」と。ミルクティーさんは本作が初めて書いた小説ですよね? いきなり書けるものなのですか?

ミルクティー飲みたいさん

:最初は小説を読むところからスタートしました。本を読むって、動画を作ったり編集したりするのとは脳の使い方が全然違うんです。『渋谷神域』で難しかったのは、主人公の描き方です。本作は、主人公の響一とアシスタントの鼓によるバディものですが、響一は都市伝説に関する専門知識や、勘を持っている。でも、小説の主人公にするには、能力が高すぎるんですよ。

:どういうことですか?

:「シャーロック・ホームズ」シリーズは、視点がワトソンだから面白いと思うんです。

 ホームズが視点者だと、より少ない情報で事件の真相に辿り着いてしまうので、読者が感情移入しづらい。『渋谷神域』では、響一はホームズ的な立ち位置ですが、どうしても響一視点で書きたかったので、すごく悩みました。

:〈神隠し〉の扱い方にも感心しました。〈神隠し〉って、雑に扱われることの多いテーマで、誰かがいなくなって終わり、そのあとどうなったかまでは描かれないことも多いんです。でも、『渋谷神域』では、情報ではなくて生身の人間に起きた事象として扱っているなと。

:僕自身が他の小説を読んでいて、大雑把な設定だったりするとがっかりしちゃうことがあったので、設定はかなり作りこみました。“人が消える”という現象に説得力とかリアリティ、肉体性を持たせるにはどうしたらいいかなって。

ヤバい土地の見分け方

:舞台はどうして渋谷にしたのですか?

:渋谷に住んでいたことがあったんです。僕は引っ越す時、その引っ越し先の地区の歴史を徹底的に調べるのですが、渋谷は本当に面白くて、ずっと頭のなかにありました。その面白さを本作にたくさん詰め込みました。

:渋谷が暗渠(地中にある見えない水路)の上にあること、自分たちが川の上を歩いていることなんて知らない人も多い気がしますね。

:はやせさんは、土地について調べるとき、何を意識しますか?

:土地に当てられた「漢字」ですね。分かりやすく「血」って入ってたり「首」って字が入っていたりすると、「なにかあるな」と思います。あと、東北地方では「さんずい」が付いている土地や、龍神や蛇を祀っている神社がある土地では、水害が起きた過去があったりしますね。その土地よりも内側に逃げれば津波が起きても助かりますよ、なんて言われていたりする。僕が住んでいた岡山県の津山市も「さんずい」が付いているだけあって水害が多いですし。水害で人が亡くなりすぎたから河童を祀っているんです。

 

:僕が意識するのは「地形」ですね。なんか気になる、怖いなって思う土地って、道の形が綺麗じゃないんですよ。行き止まりが多かったり、やたらとくねくね曲がって複雑だったり、道が狭かったり、高低差も大きいんです。そういう土地って、なんらかの原因があって、道を真っすぐに引けなかったんですよね。暗渠なんてまさにそうで、川があったからそれを避けて道を引くので、斜めになったりする。そうすると三角形の地形がおのずと生まれる……。三角の地形って風水的には昔から良くないと言われているので、住むのは避けています。

:どこに行っても同じ特徴を持つ場所がありますよね。たとえば川沿いに桜が植えられているところって多いじゃないですか。あれってちゃんと理由があるらしいです。昔は川の氾濫がすごく多くて、人がたくさん亡くなったので、桜を植えることで人がたくさん見に来て、土地を「踏み固めてもらう」ためだそうで。「桜綺麗だな」なんてお花見している人も多いと思いますが、実はそこでは過去に人がたくさん亡くなっているかもしれないですよ。

いつまで続けるか

:ミルクティーさんの動画は、てっきりチームで作っていると思ったんですよ。そうじゃないとおかしいくらいクオリティが高い。それこそ最初にお会いした時に聞いたんです。「何人で作られてるんですか?」って。そうしたら全部自分でやっていると。「これを一人でやってるの!?」って震えましたね。

「編集キツくないですか?」って聞いても「楽しいんです。編集作業も楽しみながらやってます。一つ一つ毎回クオリティを上げていくように作っている」と仰っていて。その言葉を胸に置いて、僕も編集頑張ってます。むちゃくちゃリスペクトしてますよ。

:やばい、嬉しい! 僕は仕事と思って仕事をしたくないんです。YouTubeって、ある程度軌道に乗ってしまえば、あまり手をかけずに作ったもので楽に人気を得ることもできると思うのですが、そういうやり方には空虚さを感じます。そうなってしまったら自分自身に誇りを持てなくなるだろうし。僕はその逆をやっていきたいです。職人魂を持ち続けたい。

:分かります。僕は必ず現地に足を運ぶ、自分の目で見て体験したことしか発信しないと決めています。この間は、ある港町の“見たら祟られる”っていう奇祭を見に行って、殺されかけました。でもそういうのも含めて自分で体験したいんですよね。

 僕もミルクティーさんと同じで、自分の一番の軸が「好き」で、見たい聞きたい知りたいという熱量を大事にしたい。今は、怪談や都市伝説をテーマにした配信者さんや活動者さんがかどんどん増えてるんですけど、本当に好きでやってる人って少ないなという気もしています。

:最初は好きで始めたことでも、長く続けていると目的が変わっちゃうのかもしれないですね。

:よく「オカルト業界がいつまで続くか分かりませんよ?」とか言われるんですよ。でも僕は食える食えないの次元でやってないから。「食えてなくてもそこでダンス踊ったるわい」って毎回言うんですけど(笑)。

動画の内容は信じなくてもいい

:はやせさんのもとにはたくさんの体験談が届くと思いますが、動画で取り上げる基準ってなにかあるんですか。

:まず、僕のスタンスとしては、話をしてくれる体験者さんを「信じている」じゃなくて「信じてあげたい」なんです。話を聞いているうちに、「違うな」と思った段階できちんと言うようにしています。体験者さんは心霊現象だと思っていても、「ただのレンズフレアですね」とか。僕が動画で紹介するエピソードに対して「信じたい人」「否定する人」、色々な方がいらっしゃると思いますが、視聴者さんの反応はあまり気にならないですね。

:僕は前提として、自分が信じられていないような話はしないです。だからこそ、視聴者さんが疑う余地があると思った話については、ちゃんと疑いながら聞いてほしいと思ってます。

:動画の内容を100%信じてほしいなどとは全く思っていなくて、動画をきっかけに視聴者さんが何かに興味を持ったり、調べたりしてくれたら嬉しいですね。『ヤバい実家』についても同じで。

 この本を通して、自分の実家はどうだろう? とか、自分の地域はどうだろう? というのを今一度振り返ってみるというのも面白いのかなと。そこから興味を持って、「こういう歴史があったんだ」とか、自分の血筋や苗字について調べてみるとか、そんなきっかけになる一冊かもしれません。

 

:僕は初めて小説を書いてみて、もっと書きたい、いくらでも書きたいという気持ちがどんどん強くなっています。経済的なことだけを考えたら、YouTubeだけをやっている方が絶対に効率はいいんです。

 でもここ一年くらい、小説を読むところから始めて、書き方を自分で考えながら書く作業をやった結果、すごく充実していたんですね。今、小説を読む人ってどんどん減っていて。たしかに映画やアニメ、ドラマを見た方が時間も短いし、良いじゃないかという考えもあると思いますが、非生産的で、合理的でないように見える行動が、実は幸福に近づく方法でもある気がしているんです。合理的に生きようと思えば思うほど、何か得るものもあるかもしれないけれど、実は幸せからは遠ざかっているのかもしれない。僕自身が、「小説を書き続ける」という挑戦をしながら、どういう変化をしていくのか、ぜひ見て頂きたいです。

司会のクダマツヒロシさん(左)

取材構成:クダマツヒロシ

◆はやせやすひろ

怪異系YouTuber都市ボーイズ(登録者数37万人)として活動。呪物コレクターとしても活動し、世界中の呪物を引き取ることをライフワークとしている。著作に『闇に染まりし、闇を祓う』、『待ち合わせは、闇の中』など。最新刊は『ヤバい実家』。

 

◆灯野リュウ(ミルクティー飲みたい)

都市伝説系YouTuber(登録者数61万人)として活動。著書に『退屈な日常を破壊する都市伝説』がある。最新刊は初小説『渋谷神域』。