「飲み食いで潰れた会社というのはないんだよ。潰れるのは、だらしなく事業をだらだらとやっている会社なんだ」――サイバーエージェント社長・藤田晋氏の胸に刻まれているのは、大王製紙元社長・井川意高氏のこの一言だ。
交際費には限度があるが、止まらない赤字事業は毎月巨額の損失を生む。では、「赤字を垂れ流す企業」の特徴とは何か。愛馬フォーエバーヤングのBCクラシック勝利に続き、FC町田ゼルビアが天皇杯を制覇。勝負強さが炸裂する藤田氏の新刊『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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井川意高さんが「飲み食いで潰れた会社というのはないんだよ」
昔、大王製紙の社長だった友人の井川意高さんと話していた時、彼がこんなことを言っていた。
「藤田くん、飲み食いで潰れた会社というのはないんだよ。潰れるのは、だらしなく事業をだらだらとやっている会社なんだ」
製紙業界とネット業界の仕事の関連性は無いに等しく、井川さんと私は完全にプライベートの友人関係だ。井川さんには美味しいご飯やワインをずいぶんご馳走になった。とても気前の良い人で、明るく楽しいので、港区界隈では昔から人気者だった。
私も一緒にいて心地が良かった。酒も女性もギャンブルも豪快に楽しむ井川さんの傍にいると、なんだか自分も赦されるような気になった。自分より真面目な優等生と一緒にいると劣等感を感じて息が詰まる、その逆なんだと思う。その後、カジノで荒っぽい賭け方をして100億円超負けて、特別背任の罪に問われたのは有名な話だけど、私は服役中に刑務所に面会に行ったほどの仲である。
そんな井川さんの言葉は私の中でずっと印象に残っている。
数百万、数千万、数億円規模の損失が
会社で利益を上げるためにコストを下げるとなると、とかく無駄使いに目がいく。特に接待交際費などは、効果が分かりにくい割に、本人たちだけが良い思いをしているのではないかという疑念も湧いて槍玉に上がりやすい。
実際には飲み食いしたことが会社に巨額の利益をもたらす取引に繋がることもあるし、空振りに終わって単に食事をしただけになることもある。ただ、どんな高級食材を使ったレストランでも一人5万円、最近では10万円の店なんかも出てきたけど、それでもたかが知れている。
一方で、事業で赤字を垂れ流した場合、数百万、数千万、数億円規模の損失が毎月コンスタントに重くのしかかっていく。もちろん将来的に取り返せる先行投資ならいいけど、みんな上手く行っていないことが分かっているのに、誰もやめると言い出せず、だらだらと赤字を垂れ流してしまう。もし会社のコストを下げたいなら、赤字事業からの「撤退」が何より本丸ということになるだろう。
しかし、その「撤退」が非常に難しい。
〈「新規事業を立ち上げるだけではダメ」サイバー藤田晋社長(52)が綴る「勝ち続ける企業・負ける企業」の差 《BCクラシックの次は天皇杯制覇》〉へ続く









