〈「ベッドシーンを毎回入れてください」と言われて…〈陰陽師〉はバイオレンスとエロスの時代に始まった〉から続く
稀代の陰陽師・安倍晴明が、親友の源博雅と難事件の数々に挑む——。
多くの読者から愛され続け、シリーズ累計部数700万部を突破した「陰陽師」。
2026年、ついにシリーズ40周年を迎えました。
40周年を記念して、夢枕獏さんに改めて「陰陽師」の歩みについて伺いました。(2回目/全2回)
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お菓子に尺八……「陰陽師」と様々なコラボレーション
——今月刊行される単行本『陰陽師 氷隠梅ノ巻』には、「菓子女仙」という作品が収録されています。菓子で病を癒すと評判の女道士が登場しますが、このお話の執筆経緯を教えてください。
京都で「弘道館」というところを管理している女性と30年来の付き合いがありまして、彼女の頼みで、「陰陽師」の小説の中にお菓子を登場させるコラボレーションをやりました。僕が小説の中でお菓子を描写して、それを実際にお菓子職人の方に作ってもらうんです。実際に食べましたが、少し酸味があって、透明の中に黄色い色がほんのりと入っていて、美味しかったですね。
あと、今度は「陰陽師」の新作をもとに、尺八奏者の三橋貴風さんとコラボレーションイベントを行います。
——「オール讀物」2026年1・2月号に発表されたばかりの新作「楽の音になりたや 花の散るままに」を元にした朗読パフォーマンスを、三橋貴風さん、デーモン閣下がやられるのですよね。
はい。三橋さんは、実は作中に登場する敦実親王の子孫なんです。少し前に、三橋さんから「敦実親王の霊を慰めるような話を書いてもらえないか」と頼まれたのがきっかけです。朗読してくれるデーモン閣下は、声がとてもいいんですよ(※)。
僕はこういった話はほとんど断らないので、頼まれると「やりますよ」と言って、いろいろな方とコラボレーションしています。
※2026年3月20日(金)~21日(土)、横浜市のミズキーホールにて。詳細はこちら。
暗いのに剽軽で、妙に情に厚い「蘆屋道満」とは?
——「陰陽師」には、晴明のライバル的な人物として蘆屋道満が何度も登場します。獏さんはなぜ、蘆屋道満がお好きなのでしょうか?
そうなんです。僕、道満が大好きなんですよ。ちょっと暗くて、ズルいところもあって、お酒も好きで、妙に人情にも通じていて……。書いてるうちにどんどん愛着が湧いて、好きになっちゃったんですよね。特に晴明にやらせちゃいけないことは、道満にやらせています。
僕の中の裏設定では、道満は晴明の「裏」なんです。道満と晴明は能力が同じだし、世の中なんてどうでもいいと思っているところも、権力者が嫌いなところも同じ。
ただ一点違うのは、晴明には傍らに博雅がいるということです。博雅がいるから、晴明は道満にならずに済んでいる。だから道満と晴明は妙に通じ合っているんですよね。酒を飲んでいる場面でも、博雅は「ああ、月が綺麗だなあ」とか言っちゃうけど、晴明と道満は何も話さなくても通じているような……そういう関係にしています。
癌にならなかったら、あの話は書かなかった
——今月刊行される文庫『陰陽師 烏天狗ノ巻』に収録されている「梅道人」について質問です。この「梅道人」での晴明と博雅の会話が、「陰陽師」ファンの間で「二人の関係が一歩進んだ」と話題になりました。このお話は、奥様とのエピソードが元になっていると伺いました。
少し前に、僕は癌を経験しました。今も定期的に検診に行っています。
前々から「カミさんと自分と、どっちが先に死ぬんだろう」と考えていたんですが、先に死ぬのは僕だろうと思ってたんです。僕の方が年上だし、女性の方が長生きなので。でも「俺が死んだら彼女はどうなるんだろう。俺は後から死ぬ方がいいかな」と思い始めたんです。
病気で辛いとき、原稿も書けないし、ネットフリックスを観るだけの日々だったので、奥さんがいてくれて本当に良かったと感じました。だから彼女に何かあったときに、自分がしてもらったことをこの人にしてあげたい、と思ったんですね。それには、彼女より長生きしなけりゃいけない。
そういったことを、晴明と博雅で書きたくなりました。作中の博雅の台詞には、自分の体験を少しだけ混ぜています。だから「梅道人」は、癌になっていなければ書かなかった話です。
その時代の自分の経験や想いが、物語にまぎれるようにして、一冊に一本くらい入っていますね。
——今年の40周年イヤーを記念して、シリーズ最新刊の単行本・文庫本が発売になったほか、シリーズ第1巻~第3巻の文庫版に限定のダブルカバーがかかりました。最後に、読者の皆さんへ一言お願いします。
40年、よく続いたなと思います。
今回、初めて文庫の表紙の絵が変わりました(※)。もともとの村上豊さんの絵は大好きなんですが、編集の方が「どうですか」と今回のイラストの方を提案してくれました。
晴明の怪しい目つきがあって、すごくかっこよかったですね。
僕も本を買うときに、表紙が選ぶときの大事な要素になるんですよ。新しい読者の方にも届いてくれれば嬉しいです。
※「陰陽師」第1巻~第3巻にかかる限定ダブルカバー。2026年1月9日(金)頃より全国書店店頭で限定発売します。なくなり次第終了となりますので、ご了承ください。












