原発は「抑止力」にはならない

 いま世界各地で安全保障への危機が増大している。ロシアのウクライナ戦争、イスラエルによるガザ攻撃、そして東アジアでは北朝鮮による核開発、中国の覇権主義的な行動が目立ってきた。

 そうした中、高市早苗首相は「安全保障の強化」と言いながら、原発回帰を進めている。原発はエネルギー自給率を高めると主張する政治家もいる。しかし原発の燃料であるウランは全量が海外からの輸入だ。はたしてエネルギー安全保障につながるのだろうか。

 原発は、核抑止力の潜在能力を持つことにもなる、という主張も根強くある。核抑止力とは、核兵器を保有することにより、敵国からの攻撃を思いとどまらせる力のことだ。

 しかし現実はどうか。ウクライナは欧州最大規模の原発を持っているが、それでロシアが戦争を思いとどまることはなく、逆に真っ先に攻撃のターゲットにされた。ロシア軍は、2022年2月24日、ウクライナ侵攻初日にチェルノブイリ原発を狙い、占拠した。同年3月4日にはウクライナ南部のザポリージャ原発を占拠した。2つの原発では攻撃が繰り返され、そのたびに核燃料の冷却が続いているか、安全性は担保されているのか、懸念の声があがる。ロシアだけではない。2025年6月には、米軍とイスラエル軍がイランの核施設を攻撃した。もはや、原発や核施設は戦争で真っ先にターゲットにされてしまうことが明らかである。

 日本の核施設も狙われている。英フィナンシャル・タイムズ(2024年12月31日付電子版)は、ロシアが東海第二原発を含む茨城県東海村の核施設を攻撃目標リストに載せていたと報じた。

 より原発を狙いやすい新兵器も登場している。無人機、ドローンでの攻撃だ。ウクライナ戦争では2025年2月にチェルノブイリ原発の事故炉のシェルターがドローンで攻撃され、15平方メートルもの穴があき、放射能漏れを防ぐ機能が失われてしまった。

 原発は空からの武力攻撃に無防備だ。

 原発がドローンで攻撃された場合に何が起こるか、2024年に日米韓の専門家らが机上演習を行った。世界最大級の原発、韓国の古里原発の使用済み核燃料プールがドローンで攻撃される、という想定だ。原子炉内の核燃料は、圧力容器、格納容器で守られているが、使用済み核燃料はそれらの容器の外にあり、原子炉建屋にあるプールに入れられている。もしここが攻撃されたら放射性物質が大量に日本に流れてきて、日本人1000万人が避難しなければならなくなり、日本政府は避難用の船、飛行機の手配や、日本の避難民を受け入れてもらえないか米国やアジアの国々に依頼する交渉に追われる、という結果になった。

 演習に参加した韓国原子力安全委員会の元委員長、姜政敏氏は、古里だけではなく、玄海原発(佐賀県)が事故を起こした場合のシミュレーションも行っていた。過去12カ月の気象状況をあてはめたところ、日本では平均で132万9000人に避難指示を出すことになるという試算結果が出た。

 2025年には、恐れていたことが起きた。7月26日午後9時、この玄海原発の敷地内にドローンが侵入したとみられる事案が発生した。西日本新聞やNHKによると、警備員らがモーター音と光を確認。光は点滅していたが、そのタイミングに連動性がなく、「3機のドローンが飛来したように見えた」と話していたという。飛んでいたとみられるのは2時間で、「発電所南側で確認後、視認できなくなった」。7月31日、九州電力の西山勝社長は記者会見で、「光の動き方やモーターの音が聞こえたことを総合的に勘案すると、ドローンであったと思うのが自然」と答えた。その行方も、目的も分かっていない。原子力規制庁担当職員は、「かけら一つ見つけることができなかった。どう防いだらいいのか、教えてほしい」と私に嘆いた。自衛隊幹部は私にこう言った。

「ライトをつけずに飛んでいるケースはもっとある。原発を減らしてもらわないと、こんなにあってはとても守り切れません」

エネルギー自給率向上こそ最大の安全保障

 武力攻撃から守る安全保障もさることながら、エネルギーを自国で確保することは私たちのライフラインの命綱であり、究極の安全保障である。

 にもかかわらず、日本のエネルギー自給率は低迷しており、2023年はわずか15・18%に過ぎない。OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中37位で、韓国(36位。21・45%)より低い。かつて日本は、石油の輸入が断ち切られたことが無謀な戦争に向かっていく一因となった。だからこそ、自前でエネルギーを確保することが最大の安全保障になる。

 幸いなことに、日本は再生可能エネルギーの環境に恵まれている。島国で風が強い海に囲まれ、火山帯で地熱の可能性が高い。海外では屋根置きの太陽光パネルを急激に普及させて再エネ率が4割に達した国もある。

 そして今、15年前の東京電力福島第一原発事故でつらい思いを背負ってきた人々が、それぞれ避難先や福島県内の地元で再エネを立ち上げている。二度と事故を起こさないために、何が必要なのか、どうしたら周囲とうまくやっていけるのか、試行錯誤しながら前に進もうとしている。その姿を、私は追ってきた。

 彼らを苦しめているのは2つ。「原発優先ルール」と再エネへの逆風だ。

 原発優先ルールとは、電気が余りそうな日には、原発は止めずに再エネのほうの発電を止めるように各大手電力が再エネ事業者に指示する、日本独特のルールだ。2024年度は九州で4・8%もの再エネの発電が止められた。

 しかし、こうした現象は世界の流れに逆行するものだ。

 EUは2009年にEU法で再エネを優先して他で出力調整すると明記している。再エネを伸ばすためだ。日本の逆行は数字にも表れている。

 世界的な気候・エネルギー分野のシンクタンクEmber(エンバー)が2025年上半期(1~6月)の電力構成を分析した報告書を公表した。それによると世界の再エネの発電量割合が初めて石炭を上回って34・3%となり、世界最大の電力源となった。石炭の割合は前年同期から縮小し、33・1%だった。原発は微増の9・1%。米科学誌「サイエンス」は2025年の科学分野で最も優れた「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」に、世界的な再生可能エネルギーの普及を選んだ。

 このエンバーの報告書では、世界各国が太陽光発電を増やす中で、日本では記録的な出力制御の影響もあり、太陽光発電は1・4テラワット時、0・4%減少したと記された。

 まともに動いている再エネ発電設備が、原発優先ルールの下で発電できなくされる。再エネを捨てさせられ、「本当にもったいない」と事業者たちが言う。

 安全保障の面からも災害対策の面からも、日本は世界の流れに逆行している。災害時に地域に小規模な再エネ発電があれば、大規模・広範囲に停電して人々が困ることもない。

 災害大国にあるべきエネルギーはどういうものなのか、私たちは東日本大震災で、「小規模・地産地消」が安全安心につながると学んだのではなかっただろうか。北海道のブラックアウトの際も、屋根に太陽光パネルを設置して発電していた人は自宅でスマホを充電し、調理もしながら過ごすことができた。

 日本が取るべきエネルギーの在り方は何だろうか。本書で探ってみたい。


「はじめに 「原発優先ルール」こそ日本の安全保障のリスク」より