『そして、バトンは渡された』で第16回本屋大賞を受賞し、『夜明けのすべて』『夏の体温』『ありか』など、家族や人とのつながりを一貫して書き続けている作家・瀬尾まいこさん。
このたび、瀬尾さんによる新たな感動作『私たちの世代は』が文庫化されました。
未曽有の感染症に翻弄された子どもたちの成長を、温かな筆致で描いた長編です。
文庫の発売を記念して、瀬尾さんに特別インタビューを行いました。
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マスク世代の子は“やさしい”印象です
――まずは、『私たちの世代は』を執筆されたきっかけからお聞かせください。2023年に単行本が刊行されましたね。
瀬尾 今思うと、かなり前の話ですね。
ちょうどうちの娘が小学校に入学したのが、コロナ禍でいろいろと制限された年でした。入学式を運動場でやって、そのあとすぐに休校になって……本当に大変で、2か月間も学校に行けませんでした。
いざ学校が再開しても制限が多くて、息苦しいなかでの学校生活を見てきた部分が大きかったです。
でも、そんな状況なのに、子どもたちって友達を作るんですよね。コロナ禍での休校中に娘と公園に行っていたら、同じクラスの女の子に偶然会ったんです。入学式しかしていないからお互いに知らなかったんですけど、話をして、そこから仲良くなって。5年経った今も、娘はその子と一緒に登校しています。
本当に大変だったけど、あの子たちはものすごく一生懸命生きていたな、という思いがあります。
でも、人によって受け止め方は違うと思うんです。
制限が解除された後って、しんどいことも多そうですよね。急に「みんなで野外学習に行くぞ」って言われても、そんなノリになれない子もいるだろうし、実際、今でもずっとマスクを外さない子もいるそうです。
引きずっているものも、残っていくものもある。子どもたちにも色々な捉え方があるんだな、と思って『私たちの世代は』を書きました。
――本作では、感染症が収束した後の子どもたちの成長や、親子関係がしっかりと描かれていますね。お母さんとずっと仲が良い子もいれば、心の距離がなかなか縮まらない不登校の子もいます。
瀬尾 たしかに作中では、教育熱心なお母さんが登場します。でも、その人も決して悪いお母さんではなくて、学校に行けない娘のためを思って、オンラインで受けられる英会話やバイオリンのレッスンの話をしたりする。いろんなものを提示してあげるけれど、タイミングが合わないと子どもと通じ合えない。
でも、子どもって思ったようには育たないけれど、やっぱり一緒にいると幸せなんですよね。
作中で一人のお母さんが、「幸せって形がないっていうけど、娘が生まれて、幸せが目の前にあるって思った」というセリフがあります。実際、娘を見るとこれが幸せなんだな、とはっきり分かります。
――どんなときに幸せを感じますか?
瀬尾 家に帰ってきたときですね。「ただいま」って帰ってくると可愛いし、ほっとします。「よかった、帰ってきた」って。あとは寝るときも可愛いな、と思いますよ。娘は自分を湯たんぽ代わりにしてくっついてきたりします(笑)。
私が娘と同じ年のときはこんなに可愛くなかったと思うのですが、娘の学年を見ていると、やさしい子が多いように感じます。
――コロナ禍で制限されたからこそ、友達との時間を大事にしようという気持ちが芽生えたのでしょうか?
瀬尾 それもあるでしょうし、喋ってはいけない期間の中で、相手のことを窺わないといけない瞬間がたくさんあったから、すごく人のことを見ているな、と思います。
この間、理科の実験の授業参観をしていたら、ある男の子が、先生が配ったプリントを全員が見やすい向きになるように置いてあげていて。そういうことが、割と自然にみんなできるんです。大人が「これしてね」って言わなくても、お互いに様子を見ながらできることが多い。
それに、あまり人のことを笑ったりしないな、とも感じます。いい言葉を言う機会も、嫌な言葉を言う機会も少なかった分、人を傷つけないようにしているのかな、と。
“やさしさの三部作”に込めた思い
――瀬尾さんの作品は、家族だけでなく、家族以外の結びつきも丁寧に書かれている印象があります。人と人とのつながりを書くのがお好きなのでしょうか。
瀬尾 そうですね。人がとても好きです。人にはすごく興味があるし、人が笑っているとうれしくなる。逆に、自分自身にはあまり興味がないかもしれません。
人と人とのつながりを書いていると、自分が意図していなくても、登場人物たちが違うつながりを見せてくれることがあるんです。「この人、裏でこんな動きをしていたんだ」って、書きながら知ることがある。だからすごく楽しいですね。
『私たちの世代は』の展開も、書きながら決めていきました。作中に出てくる男の子と女の子がいい感じの関係になったときも、「くっつけばいいのに」って、応援しながら書いていました。
――『私たちの世代は』の文庫化にあたって、『そして、バトンは渡された』『夜明けのすべて』と合わせて“やさしさの三部作”という帯を作らせていただきました。『そして、バトンは渡された』は2019年に本屋大賞を受賞され、瀬尾さんにとっても大きな作品だったかと思います。今、振り返ってみていかがですか。
瀬尾 本屋大賞をいただいたことはすごく大きかったです。それまでは、周りの人に小説を書いているって言っていなかったんですよね。書店員さんに認めてもらえて、「作家って自分で言っていいんだな」と自信を与えてくれた作品です。
『そして、バトンは渡された』は血の繋がらない親子の話なのですが、主人公の優子ちゃんは、全員から愛情を注がれて幸せに育ちます。
愛情を注げるあてがあることって、私にとってはすごく精神を安定させてくれることなんですよね。自分の子であろうと、学校の生徒であろうと、自分の気持ちを注げるものがあることは、本当に幸せなこと。それ以上のものはないなと、書いていて改めて気づかされました。
――『夜明けのすべて』はいかがでしょうか。PMSに悩む藤沢さんとパニック障害を抱える山添君が、お互い助け合いながら日々を過ごしていくお話です。名前のつけられない関係性がとても素敵でした。
瀬尾 この作品は、私自身がパニック障害になった経験がもとになっています。自分のことはなかなか救いにくいけれど、他人のことなら「こうしてあげたら、ちょっとは楽になるんじゃないかな」って気づけることがある。病気を治せるわけではないし、的外れなこともあるかもしれないけど、救える手段があるのではないかと思いながら書きました。
「男女の友情は成り立つか」なんて言う人がいますけど、私は普通に成り立つと思うんですよね。友達でも恋人でもないけれど、目の前にいて、なんとなく気になって「こうしてあげたいな」って思う人がいる。職場であったり、何かで会ったりする人のさりげない一言に救われることって、たくさんあるんじゃないかと思います。
『そして、バトンは渡された』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』はつながっているわけではないですが、どの話の中にも“やさしさ”が必ず含まれていると思います。
親が子を思う気持ちであったり、そばにいる他人を思う気持ちであったり、しんどい時代を一緒に生きてきたみんなの気持ちであったり。違った形の“やさしさ”が描かれているので、新しい帯はとても素敵だなと思いました。
――最後に、『私たちの世代は』をこれから読む方に向けて、メッセージをお願いします。
瀬尾 この本を出したときに、タイトルについて昔の教え子から連絡があって「コロナ禍って、初めて全員が同じ世代になれた不思議な期間だった」と言っていたのが印象に残っています。例えば「ゆとり世代」は一部の世代だけがそう呼ばれてきたけれど、コロナ禍は全員が困っていましたよね。だから、皆さんが「ああ、そうだったな」と思い当たるような部分が、『私たちの世代は』の中には絶対にあると思います。
コロナ禍じゃなくても、しんどい時ってたくさんありますよね。だけど、正しい道じゃなくても、ちょっとでも前に進んできたからこそ、何かにたどり着ける。そんなふうに読んでいただけたら嬉しいです。








