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声に出して読みたい、世界レベルの感動スピーチ。夢、努力、成功の秘訣を公開!

声に出して読みたい、世界レベルの感動スピーチ。夢、努力、成功の秘訣を公開!

文:瀧本 哲史

『巨大な夢をかなえる方法 世界を変えた12人の卒業式スピーチ』 (ジェフ・ベゾス、ディック・コストロ、トム・ハンクス、サルマン・カーン、ジャック・マー、チャールズ・マンガー、イーロン・マスク、ラリー・ペイジ、シェリル・サンドバーグ、マーティン・スコセッシ、メリル・ストリープ、ジェリー・ヤン 著/佐藤智恵 訳)


ジャンル : #ノンフィクション

「巨大な夢をかなえる方法」という日本語タイトルと、その内容を表す「世界を変えた12人の卒業式スピーチ」というのは、一見何のつながりもない、あるいは、真逆なものに見えるかも知れない。「卒業式のスピーチなんて、話題作りに著名人を呼んで、眠くなる話を聞かされるのではないか」、そんな予断を持つ人もいるかもしれない。しかし、欧米の文脈では、著名人が行う卒業式スピーチにはそこでしか聞けないような素晴らしい体験談に満ち、極めて感動的なことが多い。

 これには、理由がある。まず、大学卒業から社会に出ることの位置づけが違う。日本の多くの大学生にとって、自由を謳歌した大学生活の「終わり」で一抹の寂しさを覚えるのが卒業式だ。その後は、まず、社会や組織への適応、悪く言えば社畜化をイメージする。一方、欧米の卒業式は、辛かった学業を終了して、社会に出てどのように未来を切り開いていくか、その出発点が「卒業」なのだ。

 その証拠に、卒業式のことを英語では、“commencement”と呼ぶ。これは、本来、始まりという意味の単語だ。であるから、卒業式には、成功のロールモデルになるような人が、若い頃の夢と努力、自らのキャリアや成功の秘訣などを話すために呼ばれるのである。また、卒業式の「スピーチ」というと、長くて、退屈という先入観を持つかも知れない。しかし、これも真逆だ。欧米において、リーダーとされる人でスピーチが下手な人はまずいない。というか、感動的なスピーチを行い、組織を動かすことが出来ることがリーダーシップの重要な部分を占めており、私の知っている例でも、スピーチが眠すぎる外資系日本支社長は短期間で更迭されている。したがって、この本に収録されている世界を代表する企業の経営者、一流の俳優、映画監督のスピーチとなれば、彼らは例外なく名スピーカーである。

 そんな彼らでも、一流大学の卒業式でスピーチを求められることは、とても名誉なことだし、メディアに紹介されることも多く、従って、スピーチに失敗したときのダメージも大きい。普段あまり個人的な話をしない経営者であっても、また、回想録を書くには若すぎる現在成長過程にある人物であっても、率直に個人的な話をする。だからこそ、慎重かつ周到にスピーチは準備され、多くの場合スピーチライターを使って、極限まで品質を上げる。そこまでして作られたスピーチは、声に出して読んでも良いほど、素晴らしいスピーチが多い。

瀧本 哲史京都大学客員准教授。エンジェル投資家。京大では「交渉論」「意思決定論」「起業論」を講義する。東京大学法学部卒業。同大学院での助手を経て、マッキンゼーに入社。独立後は企業再建などを手がける。著者に『僕は君たちに武器を配りたい』『君に友だちはいらない』(講談社刊)など。『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』(ピーター・ティール ブレイク・マスターズ著、NHK出版)の序文も担当。

 とはいえ、著名な大学はたくさんあり、毎年、卒業式はあるので、卒業式スピーチは歴代たくさんある。良いスピーチを作るためには、まず、聞き手の分析から始めて、それに応えなければならない。そうなると、アメリカの大学の卒業生の問題関心にもっともあったスピーチが、日本の読者にとって最良のものである保証はない。

 そこで、この本の一つの付加価値は、数多くの卒業式スピーチから、タイトルに偽りなく、世界を変えるほどの大きなインパクトを実現した人達の名スピーチから、日本人一般読者の視点から見ても、興味深いスピーチをより抜いているところにある。編集者と訳者は、過去10年分ほどのスピーチから探し出し、それぞれの版権所有者と交渉をしたとのことであるから、この一冊を制作するための努力は、通常の翻訳書の比ではないだろう。一流のリーダー達が特別な場のために、周到に準備して作ったスピーチから、さらに選別して、とりまとめたもの、セレクションに次ぐ、セレクション、エッセンスをさらに煎じ詰めたものがこの本と言うことになるだろうか。

 ただ、第一高等学校東京大学弁論部出身である私が、読者にひとつアドバイスするならば、スピーチはスピーチであるが故の迫力、説得力があり、文字おこしにするとその臨場感は弱まってしまう。そこで、この本を出発点にしてインターネットで実際のスピーチ動画を探していただきたい。そうすると、この本が焦点を当てた「卒業式スピーチ」というジャンルの魅力をより知ることが出来るだろう。

本書登場の「世界を変えた12人」

(目次より)

ジェフ・ベゾス(アマゾン創業者) 「賢さと、優しさ」

ラリー・ペイジ(グーグル創業者) 「巨大な夢をかなえる方法」

ジェリー・ヤン(ヤフー!創業者) 「“野蛮で失礼な”若者」

ディック・コストロ(ツイッターCEO) 「この瞬間を生きる」

ジャック・マー(アリババグループ創業者) 「大学受験に3度失敗して」

シェリル・サンドバーグ(フェイスブックCOO) 「リーン・イン!」

イーロン・マスク(テスラモーターズ創業者) 「地球のバックアップを」

サルマン・カーン(カーンアカデミー創設者) 「思考実験としての輪廻転生」

トム・ハンクス(俳優) 「不安ではなく、信念を育め」

メリル・ストリープ(俳優) 「演技する理由」

マーティン・スコセッシ(映画監督) 「1ミリも才能がない?」

チャールズ・マンガー(バークシャー・ハサウェイ副会長) 「成功の秘訣は『学習マシーン』」

単行本
巨大な夢をかなえる方法
世界を変えた12人の卒業式スピーチ
ジェフ・ベゾス ディック・コストロ トム・ハンクス サルマン・カーン ジャック・マー チャールズ・マンガー イーロン・マスク ラリー・ペイジ シェリル・サンドバーグ マーティン・スコセッシ メリル・ストリープ ジェリー・ヤン 佐藤智恵

定価:1,760円(税込)発売日:2015年03月11日

プレゼント
  • 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編

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    応募期間 2024/12/17~2024/12/24
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