暇さえあれば変なものを観察して、誰かに伝えたい衝動に駆られている。

 これまで、ネットに溢れるスピリチュアルビジネス、陰謀論、反ワクチン、トンデモ集団などを観察してきた。「黒猫ドラネコさんに書いてもらいたい」の声が、私を突き動かし、できるだけ楽しく、しっかり悪ふざけしながら書いている。ライターとしてそのスタイルを重視している理由は、面白い方が読まれて注意喚起に繋がると思うからだ。お堅い文章ではなかなか気にしてはもらえない。

 それが高じて、2021年末から色んな変な集会に入り込んでレポートするということを始めた。theLetterという媒体での配信だ。メールマガジン形式でウェブ上でも閲覧可能なニュースレター「トンデモ観察記」は、本書の刊行時点で登録読者総数2万7000人を超えた。私よりもたくさんの情報を持つウォッチャーや、情報提供者にも支えられ、好き放題に書いていくうちに、過分な評価をいただいている。

 しかし、このところシャレにならない、面白く書いてばかりもいられないことが本当に増えた。SNSの普及もあって、コロナ禍では正義感の強さや純粋さから誤情報に踊らされる人が増え、社会が分断されてしまった。

 センセーショナルな動画を作ってバズりさえすれば、誰でもカネを稼げるようになり、AIの発達もそれらを後押ししている。根拠の希薄なことを真実であるかのように垂れ流して煽り立てる輩は激増した。いまや誰しも、親族や知人や友人に、動画で見た情報をためらいもなく語られたことがあるはずだ。そして、その話には、人種差別やマイノリティへの無配慮が加わっている。

 もはや他人事ではない。世はまさに「大海賊時代」ならぬ「大陰謀論時代」と言えるだろう。

 

 大海原を渡るように、私は常にそうした陰謀論的な言説が次々に溢れる現場に出向いてきた。新型コロナへの感染対策の忌避、ワクチン反対運動の盛り上がりを数々の現場で目の当たりにし、そしてついにトンデモ集団が政治にも介入していく模様に立ち会った。

 2022年に参政党の街宣を初めて見に行き、「これはいかん……(でも面白い)」と思って観察対象としてきた。彼らは思いのほか勢力を拡大し、同年夏に国政政党になってしまった。それからの私は、彼らを定点観測するようになっていった。街宣を聞きに行き、自腹で高額チケットの政治資金パーティーに参加して、あえてその熱狂の中に身を投じた。延々と流される特攻隊の映像に白目になったり、明らかなデマの講演に「んなわけねえだろ」と小声でツッコんだり、「1、2、参政党ー!」と一緒に叫んだり、しかし叫んで掲げる指は3本ではなく親指と人差し指で丸を作って「お金」にして遊んだりしながら、その様子を発信し続けてきた。

 そうしたレポートは知る人ぞ知るものにはなった。しかし私程度の影響力ではどうすることもできなかったのかもしれない。ニヤニヤしながら見てきた彼らは大躍進を遂げた。記憶に新しい25年夏の参院選で、ついに参政党は大バズりして14議席を獲得、続く26年の衆院選でも15議席を得た。トンデモ陰謀論政党の参政党は今や何食わぬ顔で、国民の選択肢の一つとなっている感がある。

 好意的に取り上げるメディアにはしっかりしろと言い続けるしかないが、有権者が勘違いしてしまうのは分かる。地方組織を固めて、どの政党よりも熱心に選挙活動を展開しているからだ。しかし、彼らに貴重な一票を投じる方々は、参政党が反ワクチン説を展開し、できもしない農業政策を誇示し、「メロンパン一つ食って死んだ人を見てきた」「対馬あたりを独立させて核を持たせて日本と同盟を結べばいい」「LGBTなんかいらない。理解増進なんかしなくていい」などと吹聴してきたことを知っているのだろうか。「敵はディープステート」など、内向きには陰謀論全開なことは分かっているのか。選挙期間中や国会内で決してそうした突飛な話はしないのに。

 

 本書は、そんな参政党のようなトンデモ集団がのし上がっていった時代を振り返り、ニュースレター「トンデモ観察記」で配信した内容に大幅に加筆して構成されている。

 第1章では、大事件を起こした神真都Qを取り上げる。SNSを介して歪んでいった人々がトンデモ集団を台頭させ、社会を震撼させることになった代表例だ。

 第2章、第3章では、メインである参政党をじっくり振り返る。党の正史では触れられないであろう、私の目線からの彼らの歩みを記していく。その様々な受難は自業自得ではあったが、嫌われている理由も分かることだろう。

 第4章では、反ワクチン集団の結束、省庁解体デモと排外主義デモのブームについてまとめた。「ネットDE真実」に陥る人々が固まり、今も頻繁にイベントを開催している。街角で見かけた時に驚かないよう、読んで知ってもらえたら幸いである。

 読者の皆さんにはなじみのない用語や団体名も出てくることだろう。基本的には本文内の記述だけで理解できるように書いているが、より詳しく知りたい方のための補足説明を註として巻末にまとめた。また、その章での主要人物や主要団体名については、章内で初出に限り太字としている。

 

 断っておくが、本書には陰謀論そのものについての体系的な学びはほとんどない。私は研究者ではないし、ましてや「正義の味方」でもなんでもないから、ただ観察してレポートしているだけだ。これまで見てきたトンデモさんたちの行動を報告し、たまにそれについて勝手な見解を述べている。そこはもう開き直りに近い。たぶん、社会への提言もそこまで多くはない。陰謀論が拡がった構造を探ったり、対策を考察したりは各自で別の本を買って勝手にしてもらえればいい。

 ただ、本書で陰謀論にハマりがちな人たちが何をしてきてどうなったのかだけは知ることができるはずだ。「事実は小説より奇なり」の世界が広がっていると思う。ぜひ震えながら読んでいただけたら嬉しい。その上で、どうしたらいいか考えてほしい。

 私たちは今、大陰謀論時代に生きている。その事実を受け止める覚悟ができた人は、ページをめくっていただきたい。


<はじめに――世はまさに「大陰謀論時代」>より