『食の極道――喋るも食うも命がけ』は、著者、勝谷誠彦さんが、雑誌記者、編集者を経てフリーのコラムニストとして活動を始めた一九九六年以降に、酒と食について書いた文章をまとめたものである。
地酒列車から、鰯(いわし)、煮込み、寿司、そして讃岐うどん……と、著者が実際に訪ねた日本各地の酒と食の魅力を伝える紀行文は、酒を愛する読者はもちろん、酒呑みならずとも思わず喉(のど)がゴクリと鳴るような名文ばかりだ。
それもそのはず、本書の冒頭でも書かれているように、著者は弱冠十五歳の頃から大阪梅田の立ち呑み屋に通うような、無類の酒好きなのだ。
勝谷 僕の通っていた中学は、私服が許されていました。そこで、中学三年の頃から、学校帰りに梅地下(梅田地下街)の立ち呑みに通うようになったというわけです。
サングラスかなんかかけて、大人のふりをして、「おばちゃん、チュウ(焼酎)ね」とやるわけです。
今思えば、どう見ても子供だったわけだから、店のおばちゃんも周りで呑んでいる大人たちも、気付いてたでしょうね。
──それでも何も言われなかったんですね。
勝谷 昔は寛容だったんでしょう。それに、今とは酒の呑み方が違った。今はまず、若い人たちが酒を呑まない。酒を知らない若者が多い。これは、若者のせいというより、酒を呑ます場を作っていない大人たちに責任があると思いますよ。
僕らの頃は、大人たちは呑むと自慢話をしていた。楽しそうに自慢話をする大人に混ざって呑んでいるうちに、酒の呑み方を憶えていった。ところが今は、大人たちは呑むと愚痴ばかり言う。愚痴ばかりのつまらなそうな酒呑みを見ていれば若者も呑まなくなるでしょう。デフレスパイラルから脱却するには、もっとみんな楽しく酒を呑め、と言いたいですね(笑)。