今年は4月からラジオ英会話を毎日続けよう、受験勉強のために1日10時間勉強しようと決めては挫折してきた。そんな経験はありませんか?

 勉強が続かないのは、勉強が面白くないのは、あなたがまだ勉強を手に入れていないからかもしれない――。「勉強には苦労してきた」という文学研究者で、ベストセラー『アカデミックライティングの教科書』(光文社)の著者・阿部幸大さんが「勉強を手に入れたい」、そう願う人の背中を後押し、着実に階段をのぼるための心構え・道具立てを可能にしてくれるエッセイ連載が始まります。今回はそのイントロです! ぜひ最後までお付き合いください。

※本連載は『勉強を手に入れる』と題して書籍化される予定です

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うまく勉強するための方法論を手に入れるためのレッスン

 こんにちは。『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』という本の著者の、阿部幸大(こうだい)と申します。筑波大学で人文学を教えるかたわら、株式会社Ars Academicaという会社を経営し、学生や大学教員はもちろん、一般企業から市区町村までの顧客にたいして、さまざまな学習指導サービスを提供しています。

7万部突破のベストセラーとなった『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(光文社)

 このたび、「勉強を手に入れる」というタイトルで連載をはじめることになりました。

 このタイトルの意味は以下で詳しく説明していますが、これは、上掲本で展開した論文執筆(アカデミック・ライティング)の技法のベースにある、わたしの学習と習得についての考えかたを、より巨大で一般的な「勉強」という営為へと拡大することを目指すエッセイです。

 つまり、わたしがどう勉強してきたかとか、どういう勉強に成果があったとか、そういった個別の技術の紹介ではなくて、そもそも勉強がうまくいくということはどういうことなのか、ただ方法を教わって真似るのではなくて、うまく勉強するためのメカニズムを自力で手に入れるための、思考のレッスンのような連載です。

 そのさらにベースにあるのは、みずから「方法論」を構築するとはどのようなプロセスなのかについての分析です。「勉強」に興味がある読者はもちろん、方法論を手に入れるとはどういうことなのかをめぐって思弁的かつ実践的に考えてみたい読者のために、この「勉強を手に入れる」という連載を隔週で紡ぎたいと思います。

 では、はじめましょう。

音読やノーティング――科学的に間違った勉強法でも成功する人がいるのはなぜ?

 本連載は、勉強の技術と考えかたについての連載です。

 しかし、そんな文章は世の中に溢れている。そんななかでも本連載の特徴は、なぜその技術や考えかたが勉強に有効なのかを抽象的な次元で深く理解することに重きを置いていることにあります。

 どのような学習が効果的であるのかは、さまざまな学問分野において研究されています。わたしはそうした活動に携わる研究者ではありませんが、そのカジュアルな読者として、そうした知見を自分の日々の勉強に取り入れてきました。

 スマホの電源を切って手の届かない場所に置くとよい、新しい知識は誰かに説明したりテスト形式にして思い出すのがよい、決まったタイミングで復習するのがよい。あるいは、ハイライトや下線を引いても意味がない、音読には意味がない、ノートをとっても意味がない、などなど。

 こうしたことは徐々にあきらかになってきています。そのようにして実験や調査によって確かめられた学習の効率や効果は「科学的に正しい」のだと、とりあえず考えておきましょう。それらは、非常に役立ちます。そのまま実践すれば、たぶん、そのまま効果が出るはずです。なるべくたくさん知っておいたほうがいい。

 しかし、たとえば、音読やノーティングといった「科学的に間違った」勉強を学習に取り入れて、とりわけそれが功を奏したおかげで優れた学習者になったような人は、過去にいないのでしょうか? そんなん、いるに決まってますよね。

ノートをとることは効果的な勉強法だと信じられてきたが…… ©Unsplash

 では、彼らはじつは音読やノーティングではなく、より「科学的に正しい」勉強法を採用していたら、もっと立派な学習者になっていたのでしょうか。あるいは、そうした科学的に間違った勉強法は、「たまたま彼らには合っていた」ということなのでしょうか。

 それをたしかめる術はないのですが、わたしは「科学的に劣った」勉強によって並外れた成功をおさめる人もいるという事実について、ひとつの仮説をもっています。それは、

 その勉強にどのような意味があるのかを、どれだけ深く理解しているかで、勉強の効果は変わる

 というものです。

 つまり、極端なことをいえば、よくわからずに実践された科学的に正しい勉強よりも、よく理解したうえで実践された科学的に誤った勉強のほうが強い、そういう場合があるということです。

 どんな方法論でも、どんな環境でも、どんどん成長してゆく人がいます。彼らには才能があるとしか言いようがないわけですが、ただ、彼らの「才能」というのは、「たまたま天才的に向いていた」ということがすべてではないのです。

 その「才能」の一部は、方法と効果の因果関係をクリアに把握できていることにある。そういう学習者は、同じことをやっても、他のひとより効果が大きい。つまり、どんな勉強方法であっても、わかってやってるやつのほうが強いということです。

勉強の本質は「わかってやっている」という手触りにこそある

 本連載は、科学的に正しいと立証された個別の勉強法を紹介するものでもなければ、それらに異を唱えるものでもありません。わたしはそのような資格をもっていませんし、そもそも、それらは非常に有用なのです。積極的に信頼していい。

 わたしが本連載から読者のみなさんに持ち帰ってほしいと思っているのは、自分はその勉強にどういう意味があるかわかってやっているか、ということを自問する姿勢です。個々の勉強法そのものよりも、この「わかってやっている」という感覚、その手触りこそが、わたしの伝えたいことなのです。

 これから紹介してゆくのは、たとえば次回の「ポモドーロ・テクニック」のような、きわめて有名だったり一般的だったり素朴だったりする技術が多いです。しかし、インターネットですぐに調べられるポモドーロ・テクニックのやりかたを説明することが目的では、もちろんありません。

 本連載は、ごく一般的なテクニックやアイディアに別の角度から光をあて、第一にあなたもそれを今よりも上手に使えるようにすること、そして第二に、もっとずっと重要なこととして、ちゃんと機能する勉強の方法論を手に入れるとはどういうことなのか、それを理解してもらうこと、この2つを目標にしています。

 わたしの認識は、勉強には量だけでなく質が重要だということです。もちろん、そんなことは誰でもわかっているでしょう。

 しかし、ここでいう「勉強の質」というものの本質は「わかってやっている」ということにあるのだということは、あまり理解されていない。本連載の核になる主張は、そこにあります。

 わかってやっていると、効果が上がりやすいだけではありません。勉強というものは、おおきな成果を生むまでに時間がかかることが多いです。そのなかなか結果が出ない長く暗い期間を「いや、こっちで絶対に合っているのだ」と確信しながら歩きつづけるための自信を、それは与えてくれます。

勉強がつまらないのは、あなたがまだ勉強を手に入れていないからだ

 では、「わかってやっている」とは、つまり、ある方法論を抽象的な次元で深く理解するとは、たとえばどういうことなのでしょうか。

 本連載ではその具体例をできるかぎり紹介します。それが直接に役立てば、それももちろん喜ばしいことではあります。しかし、ほんとうに受け取ってほしいことは、いかにしてその勉強法が間違いなく自分には機能するという確信をわたしが得るにいたったのか、その思考や検証のプロセスなのです。

©Unsplash

 本連載が提供したいのは、「勉強法」というよりも、「勉強法のつくりかた」のようなものです。ほかの学習者にはイマイチでも、あなたにとっては確実に効果を上げるような勉強。「有名なあの人が良いと言っていたから」といった根拠ではなくて、かりに誰かに否定されようとも、あなた自身がこれはこういうメカニズムで間違いなく自分の能力を育ててくれているのだと確信できるような勉強。

 それを手に入れることはすなわち、「勉強を手に入れる」ことにほかなりません。それが本連載のタイトルに込められた意味です。

 勉強が辛かったりつまらなかったりするのは、あなたが怠惰だからでもバカだからでもない。勉強を手に入れていないからです。その認識を切り替えることで本連載は、あなたの日々の勉強に、ひとつの希望をもたらすことを目指します。

本を読むのが苦手な文学研究者が愛用する勉強技法。25分集中+5分休憩=30分1セットのポモドーロ・テクニックで勉強量を可視化せよ!〉へ続く