9月3日、都内某所で行われた映画『さとこはいつも』(沖田修一監督・脚本、9月18日より公開)試写会。本編上映後に行われたスペシャルトークにはなんと、あのサプライズゲストが……!(司会:奥浜レイラ)
◆「本当に沖田さんが書いたんですか?」
奥浜(以下、――):今日はスペシャルゲストの方がいらっしゃるのですが、みなさんには、どなたが来るかお伝えしていなかったと思います。それではお迎えしたいと思います。……前田敦子さんです!!
前田敦子(以下、前田):さとこじゃなくて、すみません。あつこです(笑)。
以前、沖田(修一)監督の作品に出させていただいたということもあり、今回もすごく素敵な作品だなっていうことで、今日こうして呼んでいただけて。好き放題しゃべっていいって言われているので(笑)、ぜひ最後まで楽しんでいってください。よろしくお願いします。

――:前田さん、今作にはご出演されていない?
前田:そうなんです(笑)。
――:そんな中でこういう場にいらっしゃることは珍しくないですか。
前田:ね、なかなかないですよね。呼んでもらう機会もないですし。
――:ご覧になっている方も多いと思いますが、前田敦子さんは2016年に公開された沖田監督の『モヒカン故郷に帰る』という作品に出演されています。
前田:もう10年前ですね。
――:あっという間ですよね。それ以降もいろいろな役で映画に出られていますが、この時は松田龍平さんの彼女役で、しかもちょっとギャルっぽい役柄だったんですよね。今観るとまた新鮮な前田さんなんですが。
前田:ちょっと世間知らずな女の子でしたね。
――:そうなんですよ。そのご縁もあり、沖田監督作品に登場している、“中を知っている人”として今日は出てきていただきました。;
本作もとっても気に入ってくださってるということで、どのあたりがお好きでした?
前田:沖田さんが女性の心情をこんなに可愛らしく描くなんて、ちょっとびっくりしました。本当に沖田さんが書いたんですか? みたいな。沖田さんが撮ってるんですよね? っていう。
――:ほんとそうですよね。
前田:沖田さんの中にすごく可愛い方がいるんだろうなって思いました。
――:しかも、年代別に(笑)。15歳の中学生、中井聡子。35歳の会社員、西田沙都子。55歳の主婦、飯島里子と3人の「さとこ」という名前の女性たちが出てきますね。
のちほど、それぞれのさとこについても語っていただこうかなと思いますけれども。今日は上映後のイベントなので、もう何を言ってもいいんですよ(笑)。結構具体的にいろいろ突っ込んで伺おうかなと思っています。

◆3人の「さとこ」の正体は……
※以下、多少のネタバレを含みますので、まっさらな気持ちで映画を楽しみたい方は、鑑賞後に読むことをおすすめします。
前田:ぜひ! みなさんもね、観たてほやほやで「あれ?」っていうところもあると思うんですよね。
――:たとえば、構成としてはその年代の違う3人のさとこが出てきて、少しずつ繋がっていたりするじゃないですか。
前田:そうなんですよ。すごく気になる。
さっきもね、裏で盛り上がってしゃべっちゃったんですけど、「あれ、3人って同じ時空に生きてるの?」みたいな。2人目の沙都子が出てきたときに、「1人目の聡子が大人になった?」って思いませんでした? 3人目の里子も、「1人目、2人目の世界にもいるじゃん」と。「あれ、マルチバース使ってる?」って思っちゃう(笑)。
1人だけ時空が違うのか、それとも3人ともまったく別世界なのか分からないし、最後まで分からない。「え、どういうこと?」と思うんですけど、それがなぜだか嫌な感じに引っかからないというか。
結局3人が揃うシーンがあるから、「あ、別々のさとこたちだったのか」と思うんですけどね。
――:ちょっと思わせぶりなセリフもありましたね。例えば、1人目の15歳の聡子ちゃんが歌舞伎で寝ちゃって、課題の感想文を無理やり書くんだけど、「歌舞伎を観ずに書いた人の中で一番おもしろい感想だった」って言われるのとかも。
前田:あの、吉田羊先生にですか。
――:はい、吉田羊先生に(笑)。
で、それに近い経験を2人目の35歳の沙都子も持っている。
前田:そうなんですよね。「書いてみれば」って言われて脚本家を目指していた、みたいなことを言ってましたもんね。それに対してはまったく明かされることなく終わっていくのですが、違和感はないですよね。
――:そうなんですよね。私はインタビューで見聞きしたことしか言えないんですけど、3人にも見えるし、1人にも見えるようにするための仕掛けをいくつかしているそうなんですよね。
前田:1人目や2人目のさとこがそのまま大人になっていったら、最後には3人目の里子さんになる気がするとも思えましたよね。
――:たしかに。
前田:同時に、2人目の沙都子ちゃんの段階でだいぶ大人になっちゃうじゃないですか。なんか少し、「あ、大人になるってこういうことか」って思いましたね。いろいろな経験を経ているなと。
◆ネブライザーが似合う女優さんを
――:有村架純さん演じる35歳の沙都子さんですね。前田さんも今年35歳になられますね。
前田:ねぇ。あ、でも私、予告にあった沙都子ちゃんが刺されるシーンは妄想の世界とか書いている小説の中の話かなと思っていたら、本当に刺されてた。
――:そうそう。あのシーンは予告でかなりセンセーショナルに表現されていますね。
ほかにもいろいろ仕掛けがあって、2~3回観ると、イースターエッグ的に「あ、ここに置いてあるものが実はこの場面にも置いてある」とか発見があるんですよね。
で、これが沖田さんのオリジナルの脚本ですからね。
前田:いやぁ、沖田さん頭いいですね。3人のさとこたちをよくこんな自然に絡められるなって。
――:間違いないです。このあたりについては、監督自ら小説版『さとこはいつも』を書き下ろされていて、そこにも映画には登場しなかった聡子の歌舞伎の感想の中身であったり、新大久保ダブルデートのお話だったりいろいろなエッセンスが出てくるので、お読みいただけると映画世界をさらに楽しめると思います。
前田:もっと深追いができるんですね。
――:それぞれの「さとこ」についても掘り下げていきたいのですが、姫野花春さん演じる1人目の聡子は冒頭、耳鼻科でネブライザーをつけた姿で出てきますね。ご覧になっていかがでした?
前田:もう、なんてキュートなんだろうって。ネブライザーがあんなに似合う人、なかなかいないと思います。
――:あれ、やっぱり「似合っている」という表現でいいんですよね(笑)。
前田:似合ってますよね。あんなずっとつけさせられてね(笑)。なのにそれがすごいキュートで、あれをつけながら妄想に耽っているところの表情も可愛いですよね。
――:聞くところによると、オーディションの時点でもうネブライザーつけさせられたらしいですよ。
前田:え、じゃあネブライザーが似合う女優さんを選んだんですね(笑)。
沖田さん、絶対好きだろうなって思いました。沖田さんに一番近い「さとこ」なんじゃないかなって私は思いましたね。
――:そうですよね。端々に年齢不詳なところが出ますよね。塩辛好きであったり、ちょっと水虫っぽいのかな? みたいなシーンが出てきたり。
前田:でも、それもまた可愛いんですよね。初恋に落ちる瞬間も可愛すぎません? ネブライザーつけて「ハッ」みたいな。可愛いの(笑)。
沖田さんがいろいろな演出をされる中で、それをそのまま吸収して聡子ちゃんが完成していったんだろうなというのが目に浮かびました。
――:現場で、演出している監督が一番楽しそうにされるというね。
前田:絶対そうですよ。
――:現場での沖田監督のリアクションはわかりやすいですか? 楽しそうだな、とか。
前田:とにかくワクワクしてくれてるんだろうなということが伝わる言い方をしてくださる監督だなと思います。

◆現場で誰よりも笑う監督
――:『モヒカン故郷に帰る』の中で私がすごく好きなのは、前田さんと、もたいまさこさんが夜中に男性たちのいびきがうるさくて眠れず、ソファーでキャッキャしている場面。あのあたりはフリースタイルでやっているのかな、という雰囲気だったんですけど。その時もきっと監督は楽しそうにされていたんでしょうね。
前田:そうでしたね。まさこ様も可愛かったです。
――:「まさこ様」って呼ばれてるんですね(笑)。
前田:広島で1か月ぐらい一緒に過ごしたので、「まさこ様、まさこ様」ってすごい懐かせてもらっていました。懐かしい思い出です。
たしかに、監督は本当に笑ってくれるので、こちらも安心しながらいろいろ試せるというか。今回も絶対に、そんなすごくいい雰囲気で撮影されたんだろうなっていうのが伝わってきますよね。
――:本当にそうですよね。特に姫野さんって今回、映画初出演されていて。それでこの自由な雰囲気というか、お芝居もすごく生き生きされているじゃないですか。やっぱり自由な環境で、監督も楽しんで演出していたのかなって感じがしますね。
15歳の聡子ちゃん以外にも、「これって沖田さんっぽいな」みたいな部分はありましたか?
前田:やっぱり、ちゃんといい感じにファンタジーにしてくれますよね。たとえば不倫の話が出ようとも、それが嫌な感じにならない。(沙都子が)刺される前なんてドロドロじゃないですか。もはやホラー(笑)。
――:ねぇ。不倫相手の沙都子の部屋の前に妻が立ってるっていう。あの演出はちょっとホラーを意識されていますよね。
前田:なのにちょっと笑っちゃうというか。有村架純さんの驚き方がすごい可愛くて思わず笑っちゃうから、刺されたこと自体も嘘かと思っちゃったというか。
「あ、現実だ」って本人が気づくとともに私たちも気づくみたいな。そういうふうに持っていけるのが本当にすごいなと思います。
リアルな作品が増えている世の中に、こんなにファンタジーもちゃんと入れてくれて、「映画」「邦画」みたいな感覚やモチーフを巧みに入れてくれる監督って、なかなか最近いないんじゃないかなと思って。現代に本当に必要な監督だなと思いました。
――:しかも、沖田さんは今年監督デビュー20周年なんですよ。
前田:そうなんだ! 今までの作品も全部そういう要素が含まれていて、おじさんが主役だろうがおばさんが主役だろうが、みんなが可愛い。なんなんでしょうね。
――:その人が生きてきた人生って、映画では一部分しか描かれてないはずなのに、その過去もすべてちゃんと愛して撮ってるなっていう感じがしますよね。
前田:すごく奥行きがあるんですよね、キャラクターたちに。だからこんな世界が本当にあるかもしれないって思わせてくれる。ファンタジーだけどちゃんと成立しているというか。素晴らしいなと思いました。
――:たとえば3人目の55歳の里子さんに関しては、書いている小説の中身も結構ファンタジックな要素が強めですよね。
前田:小鳥さんが本屋を訪れるお話ですよね。
――:そうです。そんな部分もありつつ、話は少し戻り、35歳の沙都子さんのお仕事についてぜひ前田さんのご意見を伺いたく。上映後じゃないとなかなか話せない内容なので。
前田:ぜひ。

◆映画ファンの抱えるモヤモヤを……
――:2人目の沙都子さんって映画宣伝プロデューサーじゃないですか。で、韓国映画を日本で配給するための会議をしますよね。宣伝物――ポスターだったり邦題をどうするかだったり。それって……こういう言い方をしていいのか……映画ファンの間でモヤモヤする部分だったりもしますよね。
前田:私も、あの場面はあえて描かれたのかなと思いました。
――:日本映画では、なかなかああいうことに言及することってないですよね。
前田:先輩である沙都子と後輩ちゃんが映画のキャッチコピー案を出すんですよね。もう映画をご覧になっているみなさんも同じ気持ちだと思うんですけど、沙都子が出したものの方がわかりやすいけれど、後輩ちゃんの案の方が圧倒的におしゃれじゃないですか。
でも、沙都子は後輩の子に「こういうものだから」って強く言う。すごいじゃんって思いました。沙都子さんが言っていることは、きっと今までの映画界に通ずるものなのかもしれない。そうやって少しずつ何かを我慢しないといけないのかなって思ってました。
――:映画ファンだけでなく、普段あまり映画を観ない層にも間口を広げるのであれば、沙都子が提案したような大衆的なキャッチコピーにせざるを得ないのかなぁと。それを映像とセリフであんなふうに追求するというのも批評的ですよね。
前田:ね、実際にああいう世界にいる人々はどう感じているんだろうと思いましたね。原題と邦題が全然違っていたりすることは、もう諦めるしかないのかと思っていました。でも、葛藤しながらもやっぱりたくさんの人に観てほしいっていう気持ちを込めると、ちょっと……ダサいほうを選ぶのかなって(笑)。
――:言っちゃった(笑)。でも、本当にそうですね。だって、沙都子は明らかに韓国文化や韓国の作品が大好きだから。
前田:そうなんですよ。誰よりも作品を愛してる。
――:映画ファンの方はあのシーンだけで2時間飲めると思いますね(笑)。
前田:ねぇ。実際、すごくリアルだって言ってましたもんね。
――:ちゃんと取材をしたそうで、しかも、この映画の宣伝プロデューサーも沙都子と同じ35歳なんですって。
前田さんからいただいた応援コメントに、「『あつこはいつも』だったら、私はどんな人生を描くかな、なんて思ったり。」という一節がありました。この作品って、観た人はみな自分のことに置き換えていろいろ考えてしまうと思うんですけど。
前田:そうですね。
◆タイ料理のタイミングは難しい
――:前田さんだったらどういう物語を書かれますか?
前田:うーん、ジャンルは……そうだなぁ。やっぱり楽しく書きたいから、1番目の聡子ちゃんみたいに……いや、でも3番目の里子さんですかね。ちょっとファンタジーにしたいなとは思いますよね。
――:3番目の55歳の里子さんは、自分の過去の初恋をファンタジックに書いてるんですよね。
前田:そうそう。自分をシジュウカラに置き換えるというのはすごく素敵だなと思って。里子の旦那さんは嫉妬するようなタイプではないと思いますけど、ああやって書くと、誰に見せても「可愛い話だね」って言ってもらえるというか、もし自分の人生を残すなら、そういうふうにしたいなと思います。
――:「あつこはいつも……」と書き出してみると、どんなものが浮かびますか?
前田:そうですね。今の自分を可愛らしく面白く書くなら、「あつこはいつも……」、うーんと……ちょっと待ってくださいね……。
――:すみません、急に創作をお願いしてしまいました(笑)。
前田:「あつこはいつも、いつタイ料理を食べられるか悩んでいる」っていうところから始めたいです。
――:ということは、いつでも食べたいってことになりますか?
前田:そうなんですよ。私の人生の中で、タイ料理を食べるタイミングってすごく難しいなって思っていて。いつでも食べたいんですけど、匂いで人に迷惑をかけることがあるかもしれないじゃないですか。逆に毎日食べていたら、にんにくの臭いってそんなにしなくなるのかなと思ってもいるんですけど、でも、誰かにちょっと不快な思いをさせちゃうかもしれないなとか考えると、撮影の前日はやめとこうかなとか、顔がむくむのもなぁという葛藤もずっとあって。
それでも、大好きな食べ物として私の中にずっとい続けるのがタイ料理ですという、そういう感じから始めたら興味を持ってもらえそうじゃないですか?
――:たしかに今、物語としてぐっと引き込まれました。もうそのまま書いていただきたいぐらいなんですけど(笑)。
前田:そんなところから自分の人生を深く追っていけたらいいのかなと思います。
――:その感じだと、1人目の15歳の聡子っぽくもなりそうですよね。
前田:そうですね。性格的に一番近いのは、1番目の聡子ちゃんだと思います。
――:え~意外です。
前田:それぐらい開放的な感覚はあるかもしれないですね。
――:これはいくらでも「さとこはいつも」って、深掘りできる作品なので。
前田:みんなが観ながら考えられる、そんな作品ですよね。

――:というところでお時間が来てしまいましたので、最後に一言メッセージをいただいてもよろしいでしょうか。
前田:観終わったあとに、一緒にちょっとすっきりしていただけたら嬉しいなと思います。
本当に、こうしてみなさんの前でお話しするのをすごく楽しみにしていた作品なので、ぜひもう1回観ていただいたり(笑)。「あ、ここにもこれがある」みたいな要素もたっぷり詰まっているので、ぜひまた映画館で探してみてほしいなと思います。9月18日(金)に公開になりますので、ぜひよろしくお願いします。……私は出てないんですけど(笑)。
今日は楽しいお時間をいただき、ありがとうございました。
――:ありがとうございました! みなさん、大きな拍手でお見送りください。








