2004.05.20 インタビュー・対談

〈特集〉浅田版「新選組」
新選組が出ていったときはスッとしたそうです
八木喜久男(八木家十五代当主)

聞き手: 「本の話」編集部

『輪違屋糸里』 (浅田次郎 著)

〈特集〉浅田版「新選組」
〈対談〉糸里が生きた「輪違屋」の魂 高橋利樹(輪違屋十代目当主)×浅田次郎
・〈インタビュー〉新選組が出ていったときはスッとしたそうです 八木喜久男(八木家十五代当主)
芹沢鴨のこと 菊地明
侍にも優る気概をもった女たち 縄田一男

『輪違屋糸里 上』 (浅田次郎 著)

――八木家は、芹沢鴨(せりざわかも)、近藤勇、土方歳三、沖田総司といった浪士たちが屯所にしていたお屋敷で、新選組もここで旗揚げしています。そもそも彼らが八木家を屯所にするようになったのは、どのようないきさつからだったのでしょうか。

 わたしども八木家は、室町時代の終わり頃から京都・洛西の壬生(みぶ)村に居を構えておりまして、江戸時代には十家ほどの郷士、いわゆる壬生の住人士(じゅうにんし)と呼ばれる人たちと、壬生村の運営や壬生狂言の世話役などに携わっていました。中でも八木家は、代々、壬生村の長(おさ)といいますか、行司役を務めてきた関係で、京都守護職や所司代と非常に深いかかわりがあったようです。

 幕末になって、第十四代将軍・徳川家茂が上洛することになり、その警護のために浪士たちが集められましたが、京都での彼らの宿所をどこにしたらいいか、という問題が出てきた。そこで幕府が白羽の矢を立てたのが、武家風の屋敷が十数軒点在している洛西・壬生村だったのでしょう。当時の壬生村は都の中心にいちばん近い西の村でしたから、将軍を警護するうえからも、非常に便利だったんじゃないかと思います。

 そういうこともあって、京都守護職から、面倒をみてほしいと頼まれたのだろうと思いますが、そう言われたら、村の行司役である八木家としては、断るわけにはいかなかったでしょうね。当時の当主は、八木家十一代目の八木源之丞でした。浪士隊が来たときは、うちだけでなく前川家など何軒かに分宿しています。

――今回の浅田さんの作品『輪違屋糸里(わちがいやいとさと)』では、その源之丞さんと奥さまのおまささん夫婦が大活躍しています。なにしろ八木家は、芹沢鴨暗殺の現場であったわけですから。八木さんご自身は、芹沢鴨という人物について、どのように聞いていらっしゃいますか。

 家に伝わっている話では、人物そのものは、威圧感のある、立派な武士だったそうです。神道無念流の遣い手で、普段は愛用の鉄扇で相手を捌(さば)いていたといいます。源之丞は、わたしらは源之丞のおじいさんと呼んでいますが、芹沢さんは酒さえ飲まなかったらええ人やのになあ、と言っていたそうです。芹沢鴨は、酒を飲んだら人がコロッと変わったようですね。いわゆる酒乱ですね。まあ、いろいろ言われていますが、なかなか立派な人だったそうですよ。

――新選組といっても寄せ集めの浪人集団ですよね。その中で、芹沢鴨のように水戸天狗党出身の侍というのは、相当に立派な部類だったんじゃないですか。

 そうですね。ともかく源之丞のおじいさんは、芹沢鴨や近藤勇らとは、よく話をしていたそうです。

――芹沢鴨暗殺事件があったとき、源之丞さんはお幾つぐらいだったんですか。

 源之丞は文化十二年の生まれで、明治三十六年に九十歳で亡くなっていますから、まだ五十前です。瓜の品種改良にも力を注いでいたそうです。

――八木邸の鴨居には事件のときについた刀傷がいまも残っていますが、あの乱闘のときに隣の部屋に寝ていたのが、おまささんと二人の息子さんでした。

 ええ、おまさのおばあさんと為三郎、勇之助が一緒でした。

――源之丞さんはお留守だったんですよね。

 ええ、その日はたまたま祇園で寄り合いがあって、別のところにおりました。雨の中、おまさのおばあさんが子供二人を連れて、直接、知らせに行っています。

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輪違屋糸里 上
浅田次郎・著

定価:本体590円+税 発売日:2007年03月09日

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輪違屋糸里 下
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