〈特集〉浅田版「新選組」
・〈対談〉糸里が生きた「輪違屋」の魂 高橋利樹(輪違屋十代目当主)×浅田次郎
・〈インタビュー〉新選組が出ていったときはスッとしたそうです 八木喜久男(八木家十五代当主)
・芹沢鴨のこと 菊地明
・侍にも優る気概をもった女たち 縄田一男
浅田次郎の『壬生(みぶ)義士伝』が刊行され、TV化され、映画化され、瞬く間に新選組に関する物語のスタンダード作品となってから既に四年が経つ――。
私はその刊行に際し、「本の話」で「新選組を小説や映画はどう描いたか」という一文を草し、その中で、主人公吉村貫一郎を軸に次のように評したのを昨日のことのように憶えている。
すなわち、「バブル崩壊後の草木もはえぬ有様の中で、家族を守っていく、いや、食べていくことの困難に加え、政治、教育、宗教、文化――どれ一つとっても袋小路に入り込み、人間の生命が虫けらのように扱われる現代にあって、恐らくは最も楽に生きているのは、恥を知らない連中であろう。そして哀しいかな最も生きにくいのは恥を知る者ではないのか。吉村貫一郎はいうまでもなく、真に誇り高く、かつ、恥を知る者に他ならない。そして、そういう者たちは常に哀しみを背負ってしか歴史の表舞台に上って来られぬのである。/私は先に、人の生命が虫けらのように扱われる現代、と記したが、そういう時代であるからこそ、義士の何たるかは、そして生命の重みは、沖田総司や土方歳三ら、スター然とした隊士ではなく、吉村貫一郎のような無名に等しき隊士の存在によって問われなければならないのである。その意味で、『壬生義士伝』は、平成の今、書かれるべくして書かれた新選組の物語ということが出来るだろう」と。
そして今、浅田次郎は、前作で掲げた生命の重みを、新選組、それも芹沢鴨暗殺に関わらざるを得なかった女たちの立場を通して描く異色の傑作を上梓した。それが『輪違屋糸里(わちがいやいとさと)』である。
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