インタビューほか

騙(だま)し合いの果て、金塊はどこに

「本の話」編集部

『煙霞』 (黒川博行 著)

大阪には南北格差がある

──北はホワイトカラーで南は庶民と自営業者でしょうか。小説の中で行政的に南北格差、北が優遇されているのを批判するような表現がありますね。

黒川  大阪の社会資本の投下はもう北ばっかりです。南大阪は同じ府民税を納めていながら、インフラなんかも遅れてます。大阪府のお偉いさんはみな北大阪に住んでるイメージがありますね。議員連中も北に多い。ま、北偏重ですわ。新御堂筋は北にあって、基本的には高速道路なんですが、これは無料です。南は阪神高速とかみんなお金をとられます。というふうに南が差別されているという感じがあります。

──小説で私立高校の理事長の住んでる佐竹台は北ですか。

黒川  そうです。大阪有数の高級住宅地です。抽選で分譲やったのに、金を積めば当選すると噂になりました。一区画が百坪ほどで、倍率が各区画百倍くらいはあったと記憶してます。

   そこに親戚や兄弟が隣同士で当選したり、二、三区画を当てて大きな敷地に住んでいるような人がいたり、もう無茶苦茶です。大阪という土地柄ですね。

──街の実像も深いというか複雑ですね。女性の登場人物ですが、ホステスと音楽教師、二人ともあくの強いキャラクターですね。

黒川  理事長の愛人、朱実に限らず、北新地のホステスなんかは、ようしゃべるし、そんなに気取りがない、高級クラブでも銀座のホステスとは違いますわ。それと菜穂子は自分でバンドをやってる音楽教師ですね。教師の実態とか生徒との関係、生徒との話しぶり、生徒からの妙になれなれしい話し方、教師のぞんざいな言い方、あれが本当の大阪の生徒と教師の関係です。

──東京ですと生徒が教師にタメ口をきくのは失礼ではないかと考えると思うのですが、大阪ではそれが普通なのでしょうか。

黒川  僕が行ってた高校はそんなに偏差値も低い学校ではなかったですけど、タメ口でしたね。ちょっと親しくなるとタメ口でも失礼ではないという感じはありましたね。

──そう感じさせるのが、大阪弁のいいところなのでしょうか。例えば芥川賞を受賞した川上未映子さんの『乳と卵』の大阪弁の会話が話題になりました。『煙霞』は大阪が舞台ということもありますが、大阪弁がテンポよく、小説にリズムを与えているように思います。意識的に大阪弁を使われているのでしょうか。

黒川  大阪弁しか書けません。標準語の会話はようできんのです。いわゆる一般社会人の東京弁の会話は書けますが、下町のおばあちゃんや子供や高校生のしゃべっている会話は無理です。僕は標準語でせりふを書くのは不可能なんです。

──田辺聖子さんも大阪弁の会話を書かれますが、著書の中で小説では本当の大阪弁ではなく、小説の中でしか存在しない大阪弁で書いていると仰(おっしゃ)っています。

黒川  大阪では、話を振られたら必ず返さなければいけないんです。そこで笑いが取れたら最高ですね。いつでも笑わせることを考えてます。吉本興業の芸人が東京を席巻するのも当然ですね。大阪人は子供のときからずっとその文化につかってますから。まあ、皆ようしゃべりますわ。意味もなく(笑)。

煙霞
黒川 博行・著

定価:1750円(税込)

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