- 2011.06.20
- 書評
「原発安全神話」は、いかに崩壊したか
文:志村 嘉一郎 (元朝日新聞電力担当記者・ジャーナリスト)
『東電帝国 その失敗の本質』 (志村嘉一郎 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
「どういうわけかわかりませんが、どの新聞記者も東京電力に批判的な話をしてくれません」。東京電力福島第一発電所の大事故後、東京電力について何度か取材に来た週刊誌の記者がこんな話をしていた。東電の広報体制が万全で、最近の電力担当記者は東電の経営に何の疑いもなく、取材しているのかもしれない。
1973年の石油危機の年に朝日新聞社の電力担当になった私は、ほとんど全国の原発を見てきた。東電の福島にも何度も行き、定期点検中の原発の中に入り、炉心の上に立ち、隣のプールに貯蔵されている使用済み核燃料をのぞきこみ、水の中で青白く光るのを見て、「なんときれいな光景なのだろうか」と、その時は思った。
東日本大震災で、福島第一原発が暴走を始め、人間の手ではなかなか制御できない状況になった。東電の社長や原子力関係者はすべて「想定外」と、暴走の直後から口裏を合わせたように言い出した。「悪いのは大地震と大津波のせいだ」と、暴走の責任を自然災害に押しつけたのである。
「なぜ女川原発が残り、なぜ福島第二原発が冷却でき、なぜ福島第一原発だけが暴走したのか。女川は高い津波を防ぐことができ、福島第二は非常電源をプロテクトさせていた。これまでは、立地交付金をいただいて豊かな町づくりができ、原子力との共存はうまくいった。だが、これからは、『最悪、町が地球上からなくなる、というリスクがあっても原発をつくるのか』を考えねばならない」
と、双葉郡といわき市から選出されている吉野正芳衆議院議員(自民)が、4月6日の記者会見で、原発を誘致してきた複雑な心境を語っている。福島第一原発の暴走は、これまで賛成してきた人たちを裏切ってしまった。地元の人たちと同様、東京電力と原発を取材してきた私たちも、反省しなければならない。
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