これまで日本でなかなか紹介されることのなかった中国史上の英雄たちを主人公に、いくつもの小説を発表してこられた田中芳樹氏。その待望の新刊は、魏晋南北朝時代の北斉の皇族で、あまりの美貌ゆえ敵に侮られることを怖れ仮面をつけて戦場に出たといわれる蘭陵王の(らんりょうおう)、華麗で悲劇的な生涯を描いた本格歴史小説である。
──蘭陵王という人物に興味を持たれたのはいつ頃のことになりますか。
田中 実は彼の名前を最初に眼にしたのは新聞広告なんです。三島由紀夫に「蘭陵王」という短篇があるのですが、その広告を見たのだと思います。ただこの短篇は蘭陵王を主人公にした歴史小説ではなくて、現代の日本で雅楽の「蘭陵王」を聴くというお話だったそうですが。この広告を眼にした頃、私は子供向けの『三国志』や『水滸伝(すいこでん)』をかたはしから読んでいて、中国に興味を持ち始めたときでした。ですから「蘭陵王」というタイトルがとても心に響いたんですね。
その後、大学生になって『アジア歴史事典』で調べものをしていたとき、偶然「蘭陵王」という項目が眼に飛び込んできました。その時彼が実在の人物であることを初めて知ったんです。仮面をつけて戦場に出たといわれているとか、非業(ひごう)の死を遂げたというようなことが書いてあって、俄然好奇心が湧いてきました。そこで正史(『北斉書』)を読むとこれが面白かった。これほどかっこいいキャラクター、三国志にも出てきませんもの。その悲劇的な最期といい、正史に書いてなければ、出来過ぎた話だなと思ったかもしれません。
──その時、蘭陵王についての小説を書きたいと思われたわけですか。
田中 これだけ魅力的な人物ですから、これはもう小説にしてみたいと思うのは自然な流れでした。幸いなことに小説家になれて、将来的には中国歴史小説を書きたいと思っていましたが、蘭陵王についてはかれこれ三十年ばかり、書きたいと思い続けてきたことになります。我ながら執念深いですね(笑)。ただ実際書くとなると、しっかりしたものを書かなくてはいけないと思ううちに、どんどん後回しになってしまいました。今回、文藝春秋のTさんに背中を押していただき、ようやく書く決心がつきました。
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