雪花山人(これは講談師・二代目玉田玉秀斎を中心とした複数人の共同ペンネームだと言われている)の著となる立川文庫『猿飛佐助』は、一説によると、実在した武将・真田幸村を玄奘三蔵に見立て、『西遊記』をモデルにして、その家来として、孫悟空をモデルに猿飛佐助が、沙悟浄をモデルに霧隠才蔵が、猪八戒をモデルに三好清海入道が考案されたという。
服部半蔵などの実在の忍者とは違い、猿飛佐助は架空の人物なのだが、元となっている立川文庫では、鳥居峠に居を構える鷲塚佐太夫という、森長可の遺臣の子として描かれている。
猿の如く山中できゃっきゃと遊んでいる最中に、戸沢白雲斎なる人物に目を付けられ、本人もよくわからないうちに忍術を授けられる。
その後、猪狩りに来た真田幸村に見出されて家来となり、僧形の豪傑・三好清海入道や、百地三太夫の弟子で元は蘆名(あしな)下野守に仕えていた浪人、霧隠才蔵などと出会い、殿を守って活躍する。
柴錬版では、真田幸村こそ同じように智将として描かれているが、これらの登場人物を踏襲しながらも、明らかに意識して立川文庫のキャラクターとは異質に描かれている。
溌剌とした少年忍者佐助は、出自に重大な秘密を抱えている、背中に瘤を負った男、伊賀忍者霧隠才蔵は、何と渡来したカンボジア人、三好清海入道は豪傑ではなく、色子上がりと見紛うような美僧となっている。
柴錬の筆の自由さは、キャラクター造形に止まらず、その設定面でも、史実の間を縦横無尽に飛び交っている。
特に、真田十勇士の物語に、山田長政を絡めてくるのは驚きだった。
山田長政といえば、日本を飛び出してシャム(現在のタイ)に渡り、時のアユタヤ朝に仕え、後には属国であるリゴールに封じられ、王となった実在の武士だ。
スケールの大きな夢を与えてくれるこの人物が僕は大好きで、山岡荘八『山田長政』ほか、遠藤周作『王国への道』、白石一郎『風雲児』など、山田長政が主人公だというだけで手当たり次第に読み漁っていた時期があるのだが、まさかこんなところで出会うとは思わなかった。
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