無意味・ナンセンスな問いに絡め取られる。これはなにも哲学に限った話ではない。ビジネスにおける意思決定や政治論議においても私たちは頻繁に同種の過ちをおかしているのではないか。このような無意味な議論を避ける力を身につけることは実生活でも大きな意味のあることであろう。
私の専門分野である経済学でも、言語の問題が大きな誤解の元になっている例がある。それが幸福度を巡る論争だ。アンケート調査などで幸福度をはかり国際比較すると、日本は収入の割に幸福度が低い国に分類される。ここから生まれるのが「日本人は不幸だ」「日本型の経済システムは人を不幸にする」という主張だ。しかし、このような調査は当然ながら各国ごとに現地語で行われていることに注意する必要があるだろう。
そもそも「幸せ」と「Happy」は同じ語なのだろうか。言語間で一方が他方より遥かに広い守備範囲をもつ単語であるという可能性は否定できない。アンケートを採ると日本人の4割が幸せと答えるという調査結果だけでは、「日本語の“幸せ”という単語」の用法を調べただけと言うことにもなりかねない。私たちの論理のみならず、感情もまた言語に支配されている。
言語の誤用(悪用?)という観点から哲学を再考することで、思考における言語の役割への感覚を研ぎ澄ますことができる。さらに「理解」「意味」「決定」というまさに哲学のコアにまで切り込む本書は、哲学を毛嫌いしている人の哲学入門として、そしてそれ以上に哲学が好きで好きで仕方がない人への治療薬としておすすめできる1冊である。
もっとも、本書はあくまで大学1年生向けの講義を元にしているため、読了後にはより系統だった土屋哲学を知りたいと感じる人もいるだろう。そんな人には2冊目として『ツチヤ教授の哲学講義――哲学で何がわかるか?』をおすすめしたい。その次は……まだ適切な入門書はないようだ。プロフィールを見るとツチヤ師は今年で古稀を迎えられるとのこと。是非これを機に本業のエッセイだけではなく、副業の哲学についても数多い著作を残し、私たちを楽しませていただきたいと期待したい。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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